初め、私はそれが彼だと気付かなかった。それは私の視力だとか眠気だとか注意力だとかとは全く関係なく、ただ単にまさか彼にこんなところで会うなんて思っても見なかったことだったからだ。うそ。ずっと考えてた。ずっとこうなったらいいなって思ってたよ。よく通る道で、公園で、学校で。そしてこの駅で、とか。でもまさか本当に合えると本気で思っていた訳じゃなかったから、私はとてもとても驚いてしまった。だってまさかこんな偶然ってある?

?」

振り向くと男の人が立っていた。私が声を掛けれらるまで彼だと気付かなかったもうひとつの理由は彼の背の高さだと思う。私が覚えているより現在の彼は背が高かったから。私の記憶の中の彼は私より少し高かっただけのような気がする。5センチとかそのくらい。なのに今の彼は明らかに私と目線が違うのだ。10センチ以上違うのではないだろうかと思った。全然違う。

「ふう、た…?」
「ああよかった、やっぱりだ」

背の高さとか顔つきとか服装とか、私が覚えているふうたよりずっと大人っぽかった。1年半前の彼とは明らかに違った。何が彼を変えたのかなって思う。でも、にっこりと笑うそのやさしい表情だとか私を呼ぶその声は同じだな、と思った。嬉しいことに。

「全然、分からなかった。いつからいたの?」
「ちょっと前だよ。ずっと電車を待ってた」
「どうして声を掛けてくれなかったの?」
「今気付いたんだよ。こそ僕より後ろにいて気付かなかったの?」
「だって、ちょっと遠いし。ふうたと会うの1年半ぶりだし、」
「僕変わってしまった?」
「うん、」
はあまり変わってないね」

私の知っていた彼はまだ子どもだったのだな、と思った。もうこれ以上成長しないだろうと思っていたのに1年半会わない間に見違えるくらいになった。私の成長はほとんど止まってしまったのに、彼はまだ変わり続けるのかなぁ?なんとなく私だけ取り残されてしまったように思えた。彼は随分遠くに行ってしまったのだろうか。

「変わってなくてよかったよ」

久しぶりに見た彼はものすごく格好良く思えた。すらっと背が伸びて、男前になって、でも優しいのは変わらなくて、きっと大層女性から人気があるに違いないと思った。いや、昔から彼はもててたけど。それ以上に今はもててるに違いない。彼女とか、いるのかな?

「ふうたは変わってしまったね」
「変わった?誰が?」

ああ、あのとき好きだって言ってしまえばよかったかな?彼がイタリアへ帰ってしまうなら、私は失うものは何ひとつなかったはずだから。だけどどうしても言えなかったのは私が意気地なしだったからだ。きっと自分が傷つくのが嫌だっただけ。今さら後悔しても仕方ないね。

「僕は何にも変わってないよ」

ね?と目をやさしく細めた彼は、確かに私の知っていた彼と何も変わっていないように思えた。
ねぇ、もう少しだけ、昔話に思いを馳せてもいいかな?