お昼を食べているときに、こんな話を突然持ち出すのも変なのかもしれない。だけど私にはそれ以外にいいタイミングが思いつかなくて、最後まで言ってみようかどうしようか悩んでいたけれど、ついうっかり言ってしまった。たぶん、あまりにも良い陽気で何でも出来そうな気がしていたせいかもしれない。もしくはただ単に眠くて判断力が鈍ってただけなのかも。

「え、が告白された?」

バジルは驚いた顔を浮かべて、そのあとに「その人の視力は正常でしたか?」なんて聞いてきた。ぐーで殴ってやろうと思ったけれどそれもあっさり避けられてしまった。なんて憎らしい。

「私だって本気だせばもてるんだから。馬鹿にしないでよね」
「でもその方の一時の気の迷いかもしれませんよね」

彼はにこにこと笑顔を崩さずに続ける。私もとりあえず笑顔を崩さないように努力してみる。多分引きつった笑顔になっているだろうけど。ここで本気で怒ったら負けだ。そう自分に言い聞かせる。バジルみたいに完璧な作り笑顔をマスターしたい。

「十人並みのこの顔が逆によかったんですかね?素朴というか」
「外見はそりゃ私も良いとは思ってないけどさ!ほら、内面とか」
「この凶暴な性格に?」
「そんなに殴られたい?」

はいはい冗談ですよ。と、両手を挙げて降参のポーズを作ったから、私も握り拳をほどいて座り直す。さらさらと若葉がお互いを擦る音がして、爽やかな風が通り抜ける。太陽は微かに眩しくて、キラキラ光る風景に目を細めた。こんないい天気の日に怒っているなんてばかみたい、と。

「バジルには分からないかもしれないけれど私にも私なりの魅力があるってこと」
「できれば一生分かりたくないことです」

他の誰に分かってもらったって意味がない。ただひとり、私が望むただひとりに分かってもらわなきゃ意味がない。それ以外は興味ないよ。その他大勢に好かれたって意味がないから。私にはもてたいって気持ちが分からないよ。私はただ好きな人に好かれたい、ただそれだけ。それだけのことなのに、どうしてこううまくいかないんだろう。私には駆け引きは向いてないのかな。

「とりあえずその人に同情しますね」

ただ、ちょっとだけ、反応を見てみたかっただけなのに。ズキンと胸が痛くなるのは反則だと思う。彼が笑顔だから冗談なんだよ、って自分に言い聞かせてみてもだめ。頭ではちゃんと分かってる。バジルは本気で私を傷つける言葉は使わない。やさしいから。だけど、私のその認識さえ間違っていたのかもしれない。本心なのかも。どっち?

「ばか。何泣いてるんですか」

やさしくやさしく、ふわふわと私の頭をなでるので。もっと、涙が出てしまいそうになったから、慌てて「泣いてないよ、ばーか」と言ってしまう。かわいくないなぁ。そう思うけれど、もうちょっとだけこうしていたいなぁ、とか思ったけれどずっと泣いたふりしているのは格好悪いのですぐ顔を上げて笑顔を見せる。

「うそだよ、告白されたとかあるわけないよ」
「やっぱり」
「分かってたの?」
「分かってましたよ」

こんなのを好く人がいるはずがない、とかそういう言葉が続くかと思っていたけれど予想に反して「のことは何でも分かるんですよ」と彼は言ったから。つくづく、自分の吐いた嘘で勝手に泣いてるなんてばかみたいだなぁ、私、と思った。

「でもに好きな人が出来たらさびしいですね」
「心配しなくても大丈夫だよ。そんな人いてもいなくてもバジルとは遊んであげるから」
「やっぱりばかですねは」

ばかって言われたから、とりあえず怒ろうと思ったのに、横を向いたら予想外に真剣な表情の彼がいたから、言おうと思っていた言葉を飲み込んでしまって、分からなくなった。彼が口が言葉を形作る。さわさわと音がして、光が揺れる。

「独占したいんですよ、悪いですか?」

その言葉に深い意味はなかったとしても。(071010.kaco)