彼はいなくなってしまった。行方不明。その四文字が冷たく私の心に現れては消える。もう一ヶ月以上も彼と連絡が取れていない。正確には最後に彼の姿を見た日から48日もの時間が経過している。もう48日間も私は彼のことを考えては不安でいっぱいになった。バジルは大丈夫なのかなって。今ボンゴレは大変なことになっているらしいから。詳しくは知らないけれど、死者、行方不明者が続出しているという噂だ。彼もそのひとりになってしまったんじゃないかって。そう考えてしまってから、私は必死でそれを否定する。ありえない。バジルがやられるなんてことありえないよ。だって、と私はいくつもその根拠を並べて自分を安心させようとする。

だって、彼がいなくなったのはボンゴレ襲撃が始まるより前だったじゃない。だって、彼が消えたとき、彼の持ち物も全て一緒に消えてしまったじゃない。彼は何一つ置いていかなかった。残して行ってはくれなかった。ふたりで撮った写真さえも。 もちろん携帯も繋がらない。 彼の痕跡は消えてしまった。 なにも知らない友達は「あんた捨てられたんじゃないの?」と言う。それだけは彼に限ってありえないと、私は自信を持って言える。 だから、私は彼が消されたのではなく、ただ身を潜めているだけなのではないかという希望を与えてくれた。彼の身に危険が迫っていたのではないか、とか。そういう風に考えることが出来る余地があるのはしあわせだった。

だから私は空の写真立てを抱いて待っている。

手がかりはない。便りも、たった一度の連絡さえもない。誰も彼の居場所を知らない。いや、もしかしたらボンゴレの人は知っているのかもしれないけれど、少なくとも私には教えてくれない。彼がまた再び私の前に現れてくれる保証もない。友達が言うように本当に、私は捨てられたのかもしれない。反対にこんなことを考えてしまうこともあった。

たった一度でいい、ほんの一言でいい、彼が私に連絡をくれたら、それだけでいいのに。私は安心できるのに。また待ってられるのに。48日はさすがにきついよ。私はこの49日目を乗り切れる自信がなくなってきちゃうよ。あなたの顔も声も、忘れてしまいそうで怖い。せめて写真くらい残していってくれればよかったのに。今まであなたと過ごした日々、全部夢だったんじゃないかって思わせないでよ。


カタンと音がした。玄関?私はすっかり冷たくなったココアを置いて椅子から立ち上がった。素足がジンジンと冷える。「だれ?」もちろん返事はない。郵便受けに何か入っている。

もう少しだけ待っていてください

一目であの人の字だって分かった。まるでお手本を見て書いたかのような文字。丁寧な文字。でも今日のは少し急いでる。

「バジル、そこにいるの?」

扉の向こうからは何も聞こえない。もう去ってしまったのだろうか?そもそもこれを入れたのがバジルだとは限らない。それなのに私は、どうしてもこの扉の向こうに彼がいるように感じられてしかたないのだ。そっと扉に耳をくっつける。「バジル?」何も聞こえない。「バジル、早くかえってきてよ」 私があなたのこと忘れてしまう前に

ひとりぼっち