親方様の家の前でバジルが女の子数名に取り囲まれていた。気になって様子を見てみると女の子が何か言って、それを彼は聞いていた。でも目は彼女達より奥のどこか遠くを見ていた。私には分かる。聞いてないでしょ?バジル。そしてふいに彼がにっこりと、花が咲くような笑顔を見せると、彼女達は満足したかのように帰っていった。なんだあれ?なんとなく、大体の見当は付くけど。

「さっすが、バジルこっちでも人気者ー」

女の子達が完全に視界から消えたところを見計らって彼に声を掛けた。彼は振り向いて私の姿を認めると「ああ、」と声をもらした。少し安心したかのような声で。

、こんなところで何してるのです?」
「親方様に会いに来ただけだよ。そしたらバジルが女の子に囲まれてた」

もてもてだねー、と言うと彼は顔をしかめた。ムッとした表情のまま「拙者は好きで囲まれていたわけではありません」こんなことなら高校になど入るのではなかった、と言う。

「なんで。並高楽しいじゃん。しかもバジルはあの子達みたいなファンまでいて」
「正直言って彼女達なんてどうでもいいんですよ。後々面倒になるのが嫌だから相手しているだけで」
「うわ、ひどー」
「きちんと相手してあげるだけでも良いと思ってほしいのですが」

この台詞、あの子達が聞いたら幻滅したりするかな、と少しだけ考えた。学校でのバジルはまさに八方美人。成績優秀で誰にでも親切で優しいバジルくんと並高の女子に人気なのです。その実、本当はこんな性格しているのだけれども。彼女達は知らない。並高でそのことを知ってるのは私だけ、かな?

「拙者はただひとりにだけ好かれていればよいのです」

そう言ってバジルがじっと私を見つめるので。バジルもこんなこと言ったり、思ったりするんだ。心臓がありえないほどばくばくいって、私の(貧相な)胸を突き抜けて飛び出ちゃうんじゃないかと思った。さすがに本当に突き破りはしなかったけれど。バジルの澄んだ瞳で見つめられたら、きっとどんな女の子も一撃だなぁと思う。ファンクラブもできちゃうわけだ。彼がクスっと笑う。

「なに赤くなっているのです?誰もおぬしのことだとは言っていませんよ」
「べ、別にそんなこと思ってないもん!」

本当はちょっとだけ期待しちゃったけど。わざわざ自分の都合の悪くなるようなことは言わない。でもきっとバジルにはばれちゃってるだろうけど。いつも私が嘘を付くと彼はことごとくそれを見破って、バシっと思い切り私の額にでこぴんをお見舞いしては、一体何年一緒にいると思ってるんですか、と言うのだ。だから今回もそうなるだろうと思って私は身構える。バジルのでこぴんは痛いから。でもでこぴんはいつまで待ってもとんでこなかった。

「そんなの嘘に決まってるじゃないですか。ばかですねは」

傷ついちゃいましたか?と言ってはでこぴんの代わりに私の頭を撫でる。なでなで。でこぴんがくる気配はない。全然傷ついてなんかないのに、バジルの手があまりにもやさしく思えたから私はちょっとだけ泣きそうになった。と、思ったら唐突にバシっておでこに痛みが走った。「なに泣きそうになってるんですか」今度はあまりの痛さに本当に涙がこぼれた。 バジルって、と私は言う。

「やっぱり本当は意地が悪い」
「今ごろ、気付いたんですか?」

と彼は笑った。ちがうよ、ずっと前から知ってたよ、と私もむくれた声で返す。ずっと前からバジルは意地悪で、そしてそれ以上にやさしかった。と、これは言わなかったけれども。
「そうですか」となんだか嬉しそうに言う彼の笑顔は、ひどく少年らしかった。
 

 

純情混じりの

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