「ん、バジル…?」

目が覚めると隣にいるはずの彼の姿がなかった。チチチチと鳥の鳴き声が聞こえる、朝日がカーテンの隙間から差し込んでくる。でもその光は彼の姿を映し出してはくれなかった。

「あ、れ…?」

バジル、一体どこ行ったの?昨日は一緒に寝たはずだったのに。いつも、朝起きたら彼が隣にいて、それで私は安心するのに。なんでいないの?  そうすると昨日の夜彼が帰ってきたかさえも疑わしく思えてきてしまう。昨日、バジル帰ってきた?もしかしたら来なかったかもしれない。私はひとりで夕飯を食べ、ひとりで眠りについたかもしれない。バジルが帰ってこない。 それはいつ起きてもおかしくないのだ。 だから不安になる。 バジルどこ行ったの? 布団には彼のぬくもりが残っているような気もするし、そうでない気もする。

私はのっそりとベッドから起き上がる。バジルどこ?窓の向こうはとても清々しい、良い天気だった。「バジル、」と私は彼の姿を追い求めるのです。 リビングの扉を開けると、とてもいい匂いがして、それと同時にいとしい声がして。

「おはようございます、」

って彼が言う。よく眠れましたか?と。彼はどこにも行ってはいなかったのです。私は起きたままの髪に手をやって寝癖を直そうとした。私は、何を不安がっていたのだろうね。きっと、寝ぼけていたのかも。

「おはよう、バジル今日は早起きだね」
「たまたま早く目が覚めたので。はお寝坊さんですね?」

そう言って笑いながらバジルが私の代わりに髪を梳いてくれる。私は俯いてされるがままになる。それを見て彼はよりいっそう笑みを増すのだ。「朝起きたら隣にバジルがいなかったから驚いた」「それは、不安にさせてしまいましたね」 頭をやさしく撫でる。

「朝ごはん、出来てますよ」
「え、やだ。起こしてくれればよかったのに」
「いつもが作ってくれるので。たまにはこういうのも良いでしょう?」

テーブルの上にはもう朝ごはんが用意されていて、良い匂いはそこから立ち上っていた。ありがとう、と言うと彼は、どういたしまして、と。彼は私の頭を撫で続ける。それが心地よくて、こてんと彼の胸に頭を預けてみる。彼の、匂いがする。

「どうしたのです?今日は甘えん坊さんなんですか?」
「バジル、ありがと」
「どういたしまして」

私がもう一度お礼を言うと彼は平然とまたそう返して。私の身体を、そっと遠慮がちに抱きしめる。私は彼のその抱きしめ方がとてもすきで。時々、どうしていいのか分からなくなってしまうことがある。私だけ、かな?こんなにもだいすきだって、思うの。バジルがどっか行っちゃったら私はどうしていいのか分からなくなってしまうよ、完璧に。 「どこにも行きませんよ」 全部全部彼にはお見通しらしい。

、」

と、彼が私を呼ぶので顔を上げると瞼にちゅっとキスが落ちた。「バジル、」と私が言うと彼は「なんです?」とあたかも何もないかのように。またゆるゆると私の髪を撫で、そっと、額に口付けた。
魔性の口づけみたいだ、って思った。私の全部をうばっていって、それでいて全部をあたえるキス