「あなたが次期ボンゴレ門外顧問?」

鈴の音が鳴るような可憐な声がすぐ耳元で、した。すぐ後ろ、真後ろ。少し首を傾けて振り返れば唇が触れることも叶いそうなくらい、もし相手の手にナイフがあったなら確実に刺されているであろう距離。身体を動かすことが出来ない。相手がこんな近くにいるのに、今までそれに気付かなかったなんて。この華やかな雰囲気に気が緩んでしまったのだろうか。まさか。

「初めまして」

すっと彼女が一歩退いた。少しだけ緊張がほぐれて、体が動くようになった。振り返る。薄いドレスを身に付け、ゆったりとショールを肩にかけている。そうして、優雅で妖艶な笑みをこちらに投げかける。嘘みたいに赤い唇は三日月形。 しかし、むき出しの白い肩がそれらと不釣合いに華奢だった。そのせいでとても幼く見える。いや、実際幼いのだろう。自分と同じくらいか、それ以下か。頑張って大人のふりをしている子どものように見えた。失礼だろうか?

「何故、そう思ったのです?」
「あら、あなたもそれなりに有名なのよ?あの家光が見込んだ弟子でしょう」

皆新しいボンゴレボスに注目しているように見えるけれど、一部はあなたを見ている。 と彼女は笑みを崩さず言った。周りに注意を払ってみれば分かる。いくつかの視線が自分に向いているのが。 ね?私の言うとおりでしょ?

「相当な才能がおありなのね、バジルさん?」
「おぬしは何者なのです?」
「私?私は。あそこにいる心優しきボンゴレと同じよ。彼の隣でへこへこしているのがパパとママ」

拙者の失礼な質問に気を害することもなく、彼女は平然とそう言った。、と彼女が名乗った名前を舌の上で転がしてみる。。偽名、じゃないよな。  彼女が視線をやった方を見るとそこには沢田殿がいた。それと男と女。確かボンゴレと同盟関係にあるどこかのマフィアのボスだったように思う。

「本当にくだらないわ。こんな豪勢なパーティーも全部無駄。意味がない」
「まぁ、確かに。ないと言えばありませんね」
「パパとママもあんな若い男にへこへこして馬鹿みたい。やっぱりそろそろうちも終わりね」
「沢田殿はりっぱなボスとしての資質を備えてますよ」
「知ってる」

と短く彼女は答えた。じっと両親が沢田殿と談笑しているのを見つめていた。と、彼女の父親がこちらを向き、笑顔で手招きした。その姿からはやさしさが滲み出ているようで、いい人じゃないか、と思った。「呼ばれちゃった」と彼女は言った。「もうちょっとあなたとお喋りしたかったのに」

「また、会えるかしら?」

そういう彼女の表情は年相応のものに見えた。寂しそうな表情、不安げな、甘えるような本心が覗いている。そっちの方がいいと思った。虚勢を張っているよりも、こっちの方が人間らしくて惹かれる、と。

「会えますよ。今日みたいに、また」
「でも今日は偶然。幸運だったのよ」
「本当にそうでしょうか?」
「では何?あなたは運命、とでも言うのかしら?」

そう挑発的に尋ねる彼女はもう幼げな表情をしていなかった。惜しいなと思った。さっきの表情はもう見せてくれないのだろうか。 運命? 全く運命だなんて恥ずかしい言葉を言うつもりなんてなかったのに。そもそも運命だなんて曖昧で形のないものなんて信じていないのに、それなのに。

「そうです。これはきっと運命ですね」

信じていないのに、根拠もないのに、そんなことを言ってしまった。こんなの、らしくないな、と心の中で苦笑する。でも、この瞬間だけは信じていたのだ。運命というものを、本気で。調子のいい話でしょう?

「そう思いませんか?」

 

デタラメ運命論者

070406