メリークリスマス!皆さんいかがお過ごしですか?恋人とデートですか?いいですね、彼氏持ちは!いえいえ、僻みじゃありませんよ、ええ決して。え、私ですか私はあれですよ。友達と皆でワイワイパーティーですよ。別にいいんですけどね。きっと楽しいですよ。きっとっていうか絶対楽しいです。だって、その中には、私の大好きな人もいますし、ね?

部屋をクリスマス風味にして、テーブルにクリスマスのごちそうを並べて、ツナの狭い部屋に10人近くの人間がぎゅうぎゅうになって入ったら準備完了!

「十代目ーーー!何飲みますか?オレがお注ぎします」
「いや、いいって。自分で注ぐし」
「ツナさんはサイダーですよね。ハルが注いであげます!」
「うそ。オレコーラ飲みたかったんだけど」
「おーい、皆乾杯しよーぜ!」
「ランボさんもコーラぁぁああああ!」
「ワインねーのかワイン」
「シャンパンならあるよ?」
「かんぱーい!」

えー、うそ、何このグダグダ感?このまま乾杯しちゃうの、と思ったら本当にしちゃったよ。なにこのまとまりのなさ。こんなんでパーティー続くのかなぁ、と不安になりながらもかんぱーいと言って皆とグラスを合わせた。カツーンとかガンとか音。誰か強くぶつけすぎじゃないの?そう思ったらカシャーンってガラスが割れる音がした。ほら、言わんこっちゃない。ランボちゃんがコーラ被ってる。

殿、乾杯しましょう」

隣に座っていたバジルがそう言った。頷いて、乾杯、って言ってグラスを合わせたらチンと澄んだ綺麗な音がした。ハッとするほどの。

「ケーキ分けますよー!」
「皆で作ったんだよ、ねー」

そうハルちゃんと京子ちゃんが声をそろえて言う。「殿も作ったのですか?」ちょこっとだけね、手伝ったの。そう言うと彼は置かれたケーキをまじまじと見て、そしてにっこりと「上手ですね」と言った。確かに、私が見たってよくできていると思う。かわいく飾りつけもされていて。白い生クリームの上にクリスマスっぽく小さなサンタさんが乗っている。私なんて大したことしていないのになんだかちょっと、誇らしい気分になった。

「おい、ワインないじゃねーかよ。誰か買って来い。山本お前行け」
「おいおい誰かってオレ指名してんじゃん」
「早く行けよ。十代目を待たせるな」
「ちょ、オレワインなんて飲まないし!」
「拙者が買いに行きましょうか?」

そう言ってバジルが立ち上がった。私の手を取って立ち上がった。え、と声を発する暇もなく背後でドアが閉まった。扉の向こうで山本が「で、誰が買い行くよー?」と言っているのが聞こえた。

「すみません殿、少しだけ付き合ってもらえませんか?」

別にいいよ、と言うと彼は、ありがとうございます、と言った。廊下を抜けて、玄関の扉が開く。彼は私の手を引いたまま。扉を開けると冬の冷たい空気が私を取り巻いた。夜はもうすぐそこ。私の手を引いて歩いていたバジルが歩みを遅めて私とならんだ。街はクリスマス一色に染まっていた。電飾がチカチカと光っていた。きれいに飾りつけされた人工の星。

「きれいだねクリスマスっぽい」
「そうですね、本当に綺麗だ」

そうバジルが言ってくれたのに私の頭はもう、こんなに沢山の電飾電気代すごいだろうなぁ、とかそういうことを考えていた。一体これ何万ぐらいかかるのだろう?すぅってバジルの声が夜に溶けてゆくようだ。私の耳だけに届いたあと、そのまま夜に消えてしまう。私だけが今彼の声を聞くことが出来て、私だけ彼の声を独占している。

「バジル、一体どこへ向かっているのですか」
「少し散歩しませんか」
「ワインはどうするの?」
「拙者たちは未成年なのでワインは売ってもらえませんよ」

確かにその通りだ。

「せっかくのクリスマスだしね」
「せっかくの月夜ですしね」

少しだけ殿とふたりっきりで過ごしたい。本当は、。とまで言って彼は口をつぐんだ。殿。すっとバジルの顔が近づいた。避ける間もなく彼がキスした。避ける気もなかったのでどちらにしろ同じことですが。クリスマスだし、ね。年に一度だけ訪れる日。どうしようもなく、隣にいる人がいとしい。

「どこへ、行くのですか?」

もう一度尋ねた。さぁ、どこへ行きましょうか。彼が答えた。
 
 

さらってしまおうか

小さく小さく彼が呟いた。彼とならそれでもいいと、思った。このままどこか遠くへ連れ去ってはくれまいか