カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ…。

ああもう頭おかしくなりそうだ!鉛筆の芯と紙が擦れる音だけが聞こえる。いや、本当は別の音も聞こえているけれども。例えば、階下でランボちゃんとイーピンちゃんがドタドタと走り回る音とか、ツナが「分からんねぇー!」とうんうん唸りながら頭をかきむしる音とか、リボーンちゃんがそのツナにスパルタ教育している音だとか(…)。あとは表の道を車が通る音、とか。世界はありとあらゆる音で溢れてる。そしてズズズと茶をすする音がした。私はその音にビクッとする。

「まだ終わらないのですか?」
「ばばバジル、もうちょっと待って!あとちょっと、あとちょっとで解けそうな気がしなくもないような気がするようなしないような…」
「どっちですか」

バジルに突っ込まれて私はちょっと泣きそうになった。明らかにバジル不機嫌だよ!突っ込みが冷たいよちょっと怖いマジで。そんな目で彼を見たら 「早く終わらせてください」と一蹴された。うう、冷たい。冷蔵庫並に冷たい。時計を見るともう7時半だった。ひぇぇ、もうかれこれ3時間ほどずっと問題解いてるよ!いつものように皆で宿題を終わらせるためにツナの家集まってからかれこれ3時間以上経ってるよ。ずっと勉強してるんだよ。偉くない私?!そんなこと思ってたら殿手が止まっています」とバジルに注意された。まぁ私がここまで終わらせることができたのはバジルのお陰だと思いますハイ。

ちなみにお勉強会というくらいですから本当はもっと沢山人いました。でも皆帰ってしまわれました。獄寺はビアンキ姉さんの出現により早々に退場しました(何しに来たんだあいつは)。ハルちゃんもお手伝いしに来てくれていたのですが暗くなると帰り道が危ないとのことで帰られました(女の子だしね!)。もっさんは「オレ、ナイター見たいから帰るわ!」とか言って底力で1時間ほど前に宿題を終わらせました。多分今頃自分ちの居間で寿司をつまみつつ茶でもすすってるんじゃないですか!薄情にも彼は数学の苦手な私とツナを残して帰ったのです。くそぅそんなに野球が大事か。(まぁこれはツナが「終わったなら帰っていいよ野球みたいでしょ?」と気を遣った結果でもありますが)

残ったのは私とツナとスパルタ教師リボーンちゃんとバジルです。一体いつになったら帰れるんだろう。全然解けない。一向に解ける気配を見せない。この問題に1時間以上取り組んでいる気がする。解けない。解く気もない。

「ば、バジル先生…この計算が合いません」
「ここの符号が間違ってます」
「あ、本当だ。じゃあ次の問題の答えを…」
「やる前から人を頼らない」
「はい…」
「リボーンこの問題が分からな」
「バジルは将来いい家庭教師になりそうだな」

リボーンちゃんがツナのSOSを無視して言った。ちょっとちょっとツナしにそうだよ!リボーンちゃん助けてあげて…!んでもって私も死にそうだよ。もう、勉強 したく な い …。でもその願いは叶わない。このプリントを提出しないと落第らしいです(またかよ!)。ななな泣きたい…。ツナが「オレ、何か飲み物持ってくる…」とふらふらと部屋を出て行った(あの子大丈夫かな…)。

「バジル先生、問5が分かりませ、ん…」
「これはこの公式を使うのですよ。問4の応用です」

彼の持つペンがサラサラと紙に文字を書き付けてゆく。まるで魔法みたいだ。書いてる文字は意味分からないし(…)。手綺麗だ本当にこれ男の人の手なのだろうか綺麗だなぁとか思ってぼぅっと見ていたら殿、聞いていますか?」と怒られた。ひぃぃ!

「やる気がないのなら帰ったらいかがです?夜遅くなればなるほど危険ですし」
「すみません…」
「もちろん、すでに暗いのでどちらにしろ拙者がお送りしますが」

私はもう一度すみません、と小さく謝った。バジル殿は怒っていらっしゃいます。だけど。言い訳するわけじゃないけどこれはバジルにも少しは原因があるのですよ?バジルがかっこよすぎるから。こんなかっこいい人、でもって私の大好きな人が隣に座ってたら心臓が勝手にドキドキして勉強どころじゃないんです。プリントよりバジルを見てる方が楽しいに決まってるし、ね。

「この問題が10分いないに解けなかったらキス、しますよ?」
「!?ちょ、バジル、何言って」

この場にツナがいなくて本当によかったと思う。いや、リボーンちゃんいるけど!悪影響だよ教育に。っていうか、心なしかリボーンちゃんさっきよりにやにやしてるような。いまいち表情の違いが分かりませんが!絶対これにやにやしてるって!

、お前今日泊まってけ。ママンならきっとオーケーしてくれるぞ」
「は?…いや、いいよ。そんな、悪いし!」
「言っとくけど、お前このままじゃ宿題終わらねぇぞ」
「だけど、ほら!泊まるったって場所ないし。ツナんち沢山人いて…」
「バジルのとこで寝ればいいだろ」
「(!)ごほ…!」

ぼふぁ…!ごほ、ゴホゴホ!見事にむせました。りりりリボーンちゃん何言ってるんですか!唐突に。爆弾発言!ゴホゴホとむせながらちらとバジルを盗み見てみると彼は事も無げに平然としていた。なんだか私だけ動揺してしまって恥ずかしい。バジルならこういうとき動揺しそうなのに。…はっ!そうだよ、所詮リボーンちゃんが言うことじゃない!深い意味なんてない、はず。「早速ママンに聞いてくるぞ」とリボーンちゃんも部屋を出て行きました。え、ちょっと待って!こんな動揺してる私とバジルを二人っきりにするのですか!うそぉ、

「手を動かしたらどうです?本当に終わりませんよ」
「すみません、」
「それとも、本当に泊まってゆきますか?…拙者の部屋に」

すっとバジルの青い目が私を見つめるから、私の心臓は張り裂けそうなくらい高鳴った。ドクドクとうるさい。私今日謝ってばっかりだと思った。でもってドキドキしっぱなしだ。なんて心臓に悪い彼だろう!

「え、でも、私…!」
「どうせ家に帰ってひとりでやっても宿題終わらないでしょう?」
「そうかも、しれないけど」
「拙者のベッド、お貸ししますよ」

殿顔真っ赤ですよ、とくすくす笑った。からかわれてる。100%からかわれてる。でも、私には顔に血が上るのを防ぐ手立てがないのだ。そもそも私は何に赤くなっているのですか!

「安心してください、拙者は沢田殿の部屋にお邪魔させてもらいますから」

それに早くこの課題を終わらせてしまえばいいだけの話ですよ。心の中で安堵のため息をついた。そうだ、その通りだ。この課題を終わらせてしまえば何も問題ない。私は帰れる。と、そこでガチャっとドアが開いた。図らずとも私の心臓はドキンと跳ねた。見るとリボーンちゃんがドアの前に立っていた。

「邪魔しちまったか?」
「いいえ」
「ママンから許可は取ったぞ。それと夕飯だ」
「だそうですよ、殿。行きましょう」

ご飯何でしょうね?と私の手を引きながらにっこりと、いつもと変わらない笑顔で言った。最初の不機嫌さは一体どこ行ったのでしょう。彼は無邪気に続ける。殿とお食事できるなんて嬉しいです。何だよ、この人。その笑顔がとても、好きだと思った。殿?と彼が振り返る。そしてそっと耳元に口を寄せて。

「それとも、やっぱり、拙者と一緒に寝たかったですか?」 

碧眼の誘惑

※そのあと私は1時間後に無事課題を終わらせることができ、バジルに送ってもらって家に帰りましたとさ!