世の中には青いものなんて沢山ある。例えば、この窓の外の晴れ渡った空だとか、つけっぱなしのテレビに映っているどこかのきらきら輝くような海だとか。私がうちわ代わりに扇いでいる半透明の下じきだって青。ついでにいうと今私が着ている色気のないTシャツも青です。そして先ほどから私を見つめるこの瞳も青なのです。
「何か用ですかバジルくん?」 「いいえ!」 「じゃあなんでさっきから私の顔ばかり見てるんですか」 「いけませんか?」
いけないとかいけなくないとかじゃなくて恥ずかしいじゃないの!なんですか私の顔に何か付いてるんですか。そうなら早く言ってください。違うならそんな見ないでください。あなたが見つめるせいでさっきからシャーペンの芯がボキボキ折れまくってるのですよ? って言えたら苦労しないのにね?言えないからこんなにも苦労してるんです。彼に対してこんな長い台詞を言えるわけない。彼を長く直視できないのです。言っているうちにだんだん声が小さくなって、視線も下がってしまう。本当はさっきの会話だってたった二言だけ言うのにすごいエネルギーを使っているのです。(だってこんなに心臓をドキドキいわせるのってエネルギーの無駄使いだと思いませんか、ねぇ!) 二人きりってのも加わって私の心臓はフル稼働、というかこれ以上は爆発しちゃうんじゃないの!ってくらい。ああ、こんなはずじゃなかったのに。私は皆で一緒に宿題やろうって言われたから来ただけなのですよ?バジルくんがいるだなんて聞いてません。だったらもっと可愛い服を着てきました。こんな色気のない普通のTシャツなんか着てこなかったよきっと!なんで私こんなに後悔してるんでしょう。ただ、普通に涼しい部屋で皆で答え教えあいながら宿題を終わらせることができると思って来たのに。
「殿」 「はいぃぃぃぃ!!(やば、完璧声裏返ったよ)」 「(…)さっきからすごい勢いでシャーペンの芯が飛んでくるのですが。おぬしの新技ですか」 「ごめんなさい…!(ボキ!)」
こんなのが新技なわけないじゃないですか。ショボすぎるよ。とりあえず、ボキボキ芯を折らないように私はシャーペンから鉛筆に持ち替えた(鉛筆ならシャーペンよりは芯折れないはず!)そしてまた数学の問題を解くことに集中することにしました。バジルくんなんて気にならないのです!
「殿?」 「なんですか」 「呼んでみただけです」
にっこりと笑いながら彼は言うのです。なんかもう訳分かんなすぎる。早くツナ達帰ってこいよ!一体コンビニまで行くのにどれだけ時間かかってるんですか。っていうか、皆で行く意味が分かりません。ちなみに彼らは電池を買いにコンビニまで行きました。クーラーのリモコンの電池が切れて冷房つけれないからって獄寺がしゃしゃり出て(「10代目!オレが買ってきます」)それをツナが断って(「え、いいよ!オレ行ってくるから」「いや、俺が行きます!」)それを山本がまとめたりして(「じゃー、皆で行こうぜ。ついでにアイスとかも買ってくりゃーいいじゃん」「ランボさんも行くもんねアイス食べるもんね!」)最終的にはなぜか皆で出て行ってしまったのです。私はこんな暑い日に外に出るのはもうごめんだったので行かない、と言いました。(もちろん食べたいアイスはちゃんと言っておきました)そしたらバジルくんも私の真似して「じゃあ拙者も行きません」って言ってきたのです。コンビニ行くぐらいだから皆すぐ帰ってくるだろうと思ったのに。全然帰ってくる気配ないです(でも時計見たら皆が出て行ってからまだ5分くらいしか経っていませんでした。私の世界ではもう1時間ぐらい経っていると思ったのですが!) 気まずいです非常に。
「二人きりですね殿?」
ボキィ!!と鉛筆が折れました。なんと芯ではなく鉛筆そのものが真っ二つになりました。よくあることですね(!)。私は何事もなかったかのように筆箱の中からこんどはまたシャーペンを取り出して、真っ二つになった鉛筆も彼の目も見ないようにしながら「そうですね」とだけ答えた。
「鉛筆が折れましたけど、手怪我してないですか?」 「してないですよ」 「これくらいで動揺する殿は可愛らしいですね」 「わわわ私で遊んでるんですか!」 「まさか。拙者はいつでも本気です。」
くすくす笑いながら彼はそう言った。この腹黒め!本気ってそっちの方が性質が悪いと思うのは私だけですか?それにしても暑いですね。やっぱりクーラーが付いていないときついです。扇風機が起こすぬるい風が私の髪を揺らして、彼の髪も同じように揺らす。
「おぬしがあまりにも愛らしいので、思わずキスしてしまいたくなります」 「な…?!ばばばバジルく…」 「やっぱり可愛らしいです」
思いっきり後退ると彼は笑ってそんなに警戒しなくてもいいじゃないですかと言った。遅いです皆!絶対途中で寄り道してます。そういうやつらです。でも、ともかく早く帰って来てください。じゃないと私バジルくんにたべられちゃ…(!)。なんて、そんなことを思ってるうちにバジルくんはもう私の目の前にいました。頭が暑さでくらくらする。こんなこと言ってしまうのは殿にだけですよ?
「殿は拙者のことが嫌いですか」
なんでそんなこと聞くんでしょう!嫌いなんてことあるのでしょうか。この世の中にある沢山の青のうち、私をこんなにもドキドキさせるのはあなたの瞳だけだというのに?
「そんなことないよ」 「では、好き、ですか?」
小さく頷くと彼はにっこりと美しく微笑んで「よかったです!」と言った。彼の瞳が近づいてくる。
もう、青しか映らない
06.07.03 バジルくん大好き!
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