彼に会いたい、と唐突に思ったのです。もう外は夕日で赤く染まっている。きっともうすぐ太陽は見えなくなり、赤から紺に空は変わるだろう。電話をかけてせめて声だけでも聞こうかと思い、携帯を手にとる。けれども、私はどうしても彼に会いたかったのです。どうしてもどうしても(ならば残された道はあなたに会いに行くしかないでしょう!)

そう思ったら私はもう家を飛び出していました。今彼はどこにいる?ツナの家?それとも別のところへ出かけている?やっぱり電話すればよかった?いいえ、私は彼がどこにいても見つけてみせます。恋のパワーです愛のパワーです。きっと私のこの足が彼のいるところに連れて行ってくれるでしょう。まるで物語の魔法の靴を履いているようにね!だから今は彼のことだけを考えて足が進む方向に身を委ねる。私は自分がどこに向かってるかなんて考えず、ただいとしい彼のことを想うのです。そうして彼のことを思うと好きという気持ちが膨らんでく。この好きって気持ちはどんなに考えても彼以外にはあてはまらない。不思議。やっぱり彼と一緒にいる時間がすごく大切だと思うのです。(そして思うのです、私恋しているんですね!)

そうだ、彼にお土産でも買っていこうかしら。バジルくんは遊びに来るときはいつも礼儀正しく、お土産を持ってきてくれるのです。だから私もそうしようと思います。コンビニに寄って2つ入りのケーキでも買おう。そしてそれを2人で食べるのです。素敵ですね!そして私は適当に歩いていた足をコンビニの方向に向けた。(そのとき私は見たのです。いとしいいとしい彼の姿を。)

「バジルくん!」

それは確信だった。後姿だったけれど人ごみにまぎれていたけれど絶対、間違ってるはずがない。きっと私にはバジルくんレーダーみたいなものがついているのです。今ビビっときました。彼のきれいな髪が橙色の夕日に染まって輝いている。もう一度彼の名を呼ぶ。その私の声に彼は振り返った。そして私の姿をその目に映すとにっこり笑って「殿ですか」と言った。こういうとき私は彼に恋していると思うのです。だってただ名前を呼ばれただけでこんなにも、ドキっと心臓が跳ねてしまうのは彼だけなのです。「バジルくん」ともう一度彼の名前を呼んでみた。自然と顔がほころんでしまう。彼もまた微笑む。けれどもそのあと眉をひそめた。

「こんな時間に何やってるのですか?もう外は暗いです」

非難するような、少しきつい声で彼が言った。まさか彼が怒るなんて予想していなかったので私は「え、あの、バジルくんに会いたくて」と狼狽えてしまった。「そんなの理由になると思ってるんですか」いつもと違うバジルくんに思わずドキリとした。だって会いたかったんです。会わなければ、あなたの姿を見なければしんでしまいそう。(だいすきすぎるんです)外してしまった視線を彼に戻すと、彼はふと表情を柔らかくして、そっと私を抱きしめた。耳元で彼の声が聞こえる。

「…電話ひとつくだされば拙者が殿のところまで行きます」

もしおぬしに何かあったらどうするんですか。拙者のために殿が危険にさらされる必要なんてないのです。なんて優しいのだろう。そんなに私のことを心配してくれるなんて、嬉しすぎます。でもちょっと心配性かな、って思う。(そんな優しいあなたが大好きです)

「並盛は大丈夫だよ安全だよ?」
「ダメです、この頃はこの辺にも変質者が出ると聞きました。油断していると連れ去られますよ」
「でもバジルくんに会いたかったんです」
「だったら拙者が殿のところまで会いに行きます」

会話はさっきと同じところを回ってる。バジルくんは分かってないなぁ!あなたに会いに行きたいっていう衝動。あなたのところまで走って行きたいっていう衝動を。私はお姫様じゃないので待つばかりは性に合わないのです。待っているだけならばこの足がついている意味がない(私の足はあなたに会いに行くためにあるのです。私の目はあなたを見つけるためにあるのです)。あなたが来るまでおとなしく待つことなんて出来ないわ!待つばかりは苦手なの。走って会いに行きます。そう言うと彼は私の目を真剣な青の瞳で見つめて言った。

「拙者だって待つのはいやです。拙者だって、いつも殿に会いに行きたいと思っているのですよ?」

おぬしに触れたい、と。知っていましたか?そう言って私の王子様は私の唇にキスをしたのです。(ここ街中なのに…!)(バジルくんて見かけによらずだいたん(!)なんですね…!)


灯ともし頃に人恋し  

(じゃあ、あなたは24時間私の隣にいるしかないわね、ダーリン?)

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