私は同じクラスの栄口くんが好きでした。でも最初から私にはどうこうしようなんて気持ちはなかったんですよ。本当です。

栄口くんには彼女がいて、しかもそれが付き合って2年というじゃありませんか。2年ですよ、2年。しかもその前からお互い片思いでその期間が長かったらしいのです。これは彼と元中一緒の子に聞いた話なんですけどね。その上その彼女が美人なんですよ。かわいい美人というか。清楚な感じの。ふんわりした雰囲気の。栄口くんと並んでるとお似合いなんですね。もう付き合って2年だというのに初々しい付き合いたてカップルに見えるんですよ。私が見かけるふたりはいつでも決してラブラブしているわけじゃないのだけれど、ふたりだけの世界というか、お互い分かり合ってる感じで私が入る隙なんて微塵もないと思い知らされるんです。絶望的ですよね。最初から勝ち目なんてなかったのです。いいえ、正確に言うと私は戦う前から諦めていたのです。彼に彼女がいると知ったその時から、あの子がその彼女だと知ったその時から、ふたりが笑って話すその光景を見た瞬間からもう「敵わないな」と思ってしまったのです。そう思ってしまった私は臆病者なのでしょうか?

「ゆうとー」と誰かが彼を呼ぶ声がします。

休み時間になると彼女は時々うちのクラスに来て栄口くんと会話を交わします。その時の彼の顔は普段私に向けるものと変わらないように見えて全く違うもののように思えるのです。彼がさん」と私に呼びかけるのと、彼女の名を呼ぶのとでは何が違うのでしょうか。彼女は名前呼びなのに対して私には名字にさん付けという点でしょうか。それだけのはずないですよね。分かってます。

ズキンズキンと痛むこの感情が早くなくなってしまえばいいのに。

彼女が移動教室でうちのクラスの前を通るとき絶対ふたりは目を合わせる。時には彼女が彼の名前を呼んであの笑顔で手を振る。その光景を見るたびに思い知らされるのに。こんなにもお似合いなふたりが別れるなんてこと、この私には想像出来ません。それどころか、別れてほしくないと願っているようでもあるのです。矛盾しています。恋とはそういうものですか?私は確かに栄口くんが好きだと思うのに、あの子がもし私だったならと思うのに、なんでだろう。くるしくてたまらないのです。自分でもどうしたいのか、どうしたらいいのか分からないのです。

栄口くんはやさしい人だから彼女をすごく大切にするんだろうなぁ。そんなふたりに別れる理由なんてないのです。私の入り込む隙なんてないのです。今日こそ捨てられるでしょうか恋心
 

さよなら

さよなら