私が



ってさ、もしかして小沢のこと好き?」

そう聞かれた瞬間私の心臓はドキっと跳ね上がった。よくあることだけれど。彼が「好き」って言葉を発するたびによく私の鼓動は速くなる。別に彼が私のことを言ったわけじゃないのに。今だって疑問系なのに。私の脳みそは彼の台詞も「すき」って言う部分だけを抜き出して意識してしまうらしい。そんな能力いらないのに。

「んー、最近ちょっと気になるかも」
「やっぱり」
「どうして分かったの?」
「そりゃ分かるよ、のことだもん」

ここでもし勇人がちょっとでも動揺してくれればいいのにって思う。私が他の誰かを好きって言ったそのことに対して。そうしたら私だってまだ希望が持てるのに。時々彼はこういうことを聞いてくる。でもそれは腹の探りあいとかじゃなくて、彼はなんとなく自分が思ったことを素直に口に出しているだけなんだ。多分何にも考えてない。深刻性はどこにもない。だって現に勇人は今ゲームをやりながら聞いてきた。もちろん目線はテレビ画面から動かない。分かるよって言葉だって、私が幼馴染で昔からずっと一緒だからという理由だけなのだ、きっと。私のこと好きでいつも目で追ってるから分かる、とかそういうことじゃない。そういうことじゃ。分かってるのにどうして私が動揺しなくちゃいけないんだ。状況が絶望的なことはちょっと考えれば分かるのに、やっぱり私の脳みそは自分に都合のいい言葉ばかりを聞き取る傾向にあるらしい。

「頑張れ」

勇人がそう一言そっけなく言ってその会話は終了した。頑張れって何だよ頑張れって。そんな適当な言い方ってないよ。本当に応援してるの?って、よく私は同じ嘘を吐いてしまうのが原因なのは分かってるんだけど。本当は勇人は私のこと全然分かってない。全然、分かってないよ。彼の背中を見つめながら私はギュッと胸が締め付けられて、泣き出しそうになる。彼はこちらを振り向かない。



想うのは




小沢くんっていうのはクラスの男の子。この間の席替えでたまたま席が近くなったのをきっかけに前よりちょこっと多く喋るようになった。それまで特に仲が良かったわけじゃないし、最近急激に距離が詰まったわけでもない。これくらい普通だよ。なのにどうして勇人は私が彼のこと好きだなんて思ったんだろうね。誰かが適当に言ってるのを聞いたのかな?それで思い込んじゃったのかな?

「勇人、さっきの授業のノート見せて?」

私が一番話しかけるのは勇人だってこと、早く気付いてよ。一番最初に頼るのは小沢くんでも他の誰でもなくて勇人だってこと気付いてよ。彼が少し小さな声で「オレでいいの?」って聞いた。きっと遠まわしに小沢に借りれば?って言ってるんだと思う。口実あるんだから話しかければって言いたいんだと思う。「余計なお世話!」脈がないの分かりきってるからって逃げる私はずるいかな?




今日も




「そういや、小沢とはどう?」

今日も勇人の家にお邪魔して、いつもと同じ時間を過ごす。私はごろごろと漫画を読んで、勇人は今日もゲームしてる。この間と同じ展開。「んーとね、」と私は切り出す。このとき本当はキリキリと心臓が痛い。だって嘘だもん。私嘘吐きなんだもん。痛くて当たり前だよね。

「やっぱり、私彼のこと好きじゃなかったみたい」

ここで勇人に好きだって言えればいいのになぁ。「なんだよ」と彼は言う。「元はといえば勇人が変なこというからじゃんか」勇人がそんなこと言わなければ私は嘘を吐かずにすんだんだよ?なんて言えないけどね。「元々ちょっと気になる程度だったもん」私にはもうずっと昔から好きな人がいるもん。それなのに他の誰かが気になって仕方ないなんて状況になること、ないよ。彼はきっと自分だけはありえないって思ってるんだろうな。私がもし勇人のこと好きだったって気付いたら本当にびっくりしたような顔するんだろう。もし、いつか勇人がってもしかしてオレのこと好き?」って聞いてくれたら私はそうだよ、今頃気付いたの?って笑って言えるかな。
いったい、正直な想いを伝えるまでに必要な嘘の数はいくつですか。
 

あなたのことだけなのに