この気持ち、誰にも悟られてないと思ってた。だからこのとき正直驚いた。

「栄口。お前さ、のこと好きだろ?」

思わず動揺して「え?」と上擦った声で返してしまった。オレのバカ。本当に何も聞こえなかったふりとか、すればよかったのに。そうしたら阿部はきっと二度目を言うのが面倒くさくて、恥ずかしくて、そのまま話は消えてなくなっただろうに。いつものオレだったらもっとうまくかわせたはずなのになぁ。

「阿部って他人に無関心なくせに、妙なとこ鋭いよなー」

このときのオレはうまく笑えていただろうか。

「お前うちのクラス来る度、どっかちらちら見てんからさ。たまたま気付いただけだよ」
「うっわ、ハズ!オレそんな見てたかー?」
「多分他のやつらは気付いてないだろうけどな」

本気で恥ずかしい!絶対、誰にも気付かれてないと思ったのに。阿部って妙なところで鋭い。普段他人に無関心そうなくせにさ。どうしてこういうとこ気付いちゃうかなー。しかもそれ本人に言うって、阿部にしてはやけにお節介だなー。

「告んないの?」
「今はそんな気ないかな。野球に精一杯って感じ」
「多分だけど、も栄口のこと好きだぜ」

向こうもお前のことちらちら見てた。あんだけお互い見てて目合わないのは逆に面白かったよ。と阿部は前を向いたまま言う。

「つかお前ら面識あったっけ?お互い一目惚れか?」
「おーい、阿部。一応も同中だぞー」
「んあ、そうだっけ?」

まぁ、篠岡のことも忘れてたくらいだもんな。とことん興味ないことは忘れる質だなぁ、とここまでくるといっそ尊敬するよ。「告んないの?」と阿部はさっきと同じ言葉を繰り返す。何度聞いたって答えは一緒だよ。

「オレは臆病だからさ、ふられんの怖いんだ」

いくら阿部がはオレのことが好きって言ったって、例え百人の人が保証してくれたってオレは言えない。の口から直接聞くまでは信じられない。だからって告られるの待つのは嫌だ。オレだって男だから好きな子に自分から思いを伝えたいよ。だけど、怖くて仕方ない。ふられてもしそのあと避けられたらどうしようとか。はやさしいからそれでもまだ友達でいてくれるかもしれないけど。とはいわゆる幼なじみで、近すぎたから。オレは大切なものをまた失うのが怖くて仕方ないんだ。もう何ひとつ失いたくないって思うのは、ずるい考えかな?

「なんてね。今はオレ、野球ひとすじだからさ!」

だったら、オレはいつまでも一緒に笑い合える方を取るよ。
 
 

臆病すぎた僕は