学校の廊下を歩いているとき、すれ違ったあの子が彼の想い人じゃないか、とか。何組の誰々さんがかわいいと喋っているのを聞いて、ああもしかしたらその子なのかもと思ったり。私の好きな人に、田島に、好きな子がいるって知ってしまってからそんなことばかりを考えてる。どうしようもない。

に好きなやついるって本当?」

ひょっこりと田島が私の視界に現れて驚いて飛び上がりそうになってしまった。あんなことを考えていたところだからなおさら。さらに、彼の放った言葉は予想外もいいところで。私はすぐには意味が理解できずに一瞬固まってしまった。彼は今なんて言った?

「え、何で?」
「最近元気なくね?って言ってたら浜田がそう言った」

は恋してるからだって」どうして浜田くんはそういうこと言うかなぁ?っていうか浜田くんにはバレバレだったってことだろうか。田島と仲いいしなぁ、私が無意識のうちに田島を目で追っていたのを気付いてしまったのだろうか。「浜田くんの気のせいじゃない?」と言うと「泉もそうだって言ってたぜ」と彼は返した。余計なことを。 うまく隠してるつもりだったのになぁ。

「ね、本当のとこどうなの?」

そんなの聞いてどうするの?田島は何かしてくれるんですか。田島は天真爛漫で無邪気で人の突っ込みにくいところにも臆さず突っ込んでくるところはあるけど、こんな風に人の恋の話にまで入ってくるようには思えなかった。恋の話してもふぅんで終わりなイメージがあったのに、こんなこと聞いてくるなんて意外だった。

「もしそうだとしたら田島は応援してくれる?」

言ってしまった。私は今ちゃんと笑って言えたかな?冗談っぽく笑って言えたかな。本当は泣きそうだってこと、ばれてないといいんだけど。田島は意外と敏感だから、うまくやらないとすぐばれちゃいそうだな。本当に気付いてほしくないことばかり気付く。気付かなくていいことなのにばっかり。それでいて、心のどこかで気付いてほしいって願ってることばかり。 勘付いてくれるだろうか、と今も心の奥底で期待している。田島、私はあなたのことすきですよ。

「あったり前じゃん!オレゲンミツにのことスキだもん」
「ありがとう」

ほしいのは、そういう「すき」じゃなくて。友達としてじゃなくて。ほしいのと違う「すき」だけれど、私はその言葉にドキっとしてしまって。分かってるのに、分かってるのに。

「応援はするけど、」

彼は笑顔を崩さず続けた。応援するけど、なんだろう。何か奢れ、とか。まさか、代わりに私に例のあの子との仲を取り持ってくれと頼むんじゃないか、とまで考えてしまって、もしそうだとしたらどうしようと思った。私がそんな風にぐるぐる色んなことを考えてる間に田島はちょいちょいって手で合図して内緒話をする仕草を見せる。私はなんだろうと耳を彼の方に向けた。田島は何にも思ってないんだろうけど、彼の声がすぐ耳元で聞こえるだけで私の心臓は破裂しそうだった。

「でもきっと喜んであげれないよ。オレのこと好きだから」

「さっきも言ったけどさ!」そう言って彼はニヒっと笑った。あのときみたいに。そうしてまた浜田くんたちのところへ戻っていく。 どうか、どうか。聞き間違えなんかじゃありませんように。幻なんかじゃありませんように。夢なんかじゃありませんように、と願った。そうして、私が思っている通りの意味でありますように、と。今度の「すき」は紛れもなく友達の「すき」とは違うものだと。私はきっとかわいい子なんかとは程遠い存在だということは分かっているけれど。ああ、神さま、どうかこれが現実であってください

「言っとくけど、冗談なんかじゃないからな!」

ああ、どうしよう、どうしよう。「オレのことすっげぇかわいいって思うもん」もし、夢じゃないとすれば、私はいったいどうすればいい?田島、すき。 そんな思いばかりが、
 

の速さで

 

駆けって