見てしまった。本当は見たくなかったな。っていうのは結果で、その当時の私は興味津々だったのだ。その時彼がなんて答えるか。期待してたのかも。ばかだね。

「好きです」

放課後、人気ない校舎を歩いていたとき聞こえてきた。屋上へと続く階段の上から。本当ならこんな気まずい場面にいるのなんかごめんで、さっさと何も聞かなかったふりして立ち去るのに、動けなくなってしまったのは、聞き慣れた声のせい。

「んーと、ごめんな」

田島だ。なんで気付いちゃったのかな。気付かなければよかったのに。きっと今この私の頭上でよくある愛の告白が行われていたのだ。一生懸命女の子が想いを伝えて、田島は断った。なんてありがちな気まずい場面。だけれどもこんな場面初めて遭遇した。しかもよりによって田島。知人の告られ現場に。なんてついてない。なんて不幸な。

「田島くん、好きな人いるの?」
「…いるよ」

心臓がズキンだかドキンだか分からない跳ね方をした。変な風に。足が根を張ったみたいにその場から動けない。傍から見たらこんなところに突っ立ってる私はおかしいだろうな。誰も通らないでくれてありがとう。好きな人いる?とかよく聞けるなぁ。なんでそこで食い下がる?やめておけばいいのに。彼女はまだ諦め切れてないんだ。それだけ田島のこと好きだったんだ。「だれ?」と彼女が聞く。そこまで、聞いちゃうの?あなた傷つかない?多分、田島は答えるよ。いつもと変わらずに

「学校一かわいいやつ」

すっごく明るい声。田島は今どんな顔してるのかな。その子のこと想って幸せそうに笑ってるのかな。ニヒっていつもみたいに。いや、いつも以上に幸せそうに。笑って、そうだな。きっと世界一幸せそうな顔してるんだろうな。田島は本当に嬉しそうに笑うから。こっちまでついつい笑顔になってしまいそうな。でもきっと今の田島の笑顔は私を傷つけるね。

学校一かわいいやつって一体どこのだれ?私の知ってる人?それとも私の知らないうちにふたりで楽しくお喋りしてたの?ほんわかしてる子?それとも美人系?中学校は?クラスは?その子も田島に気があるの?その子は田島の野球してるとこ見たことありますか?普段は何が楽しいのか子どもみたいに笑ってばっかのくせに。いつもはばかみたいに騒いでるくせに。田島のくせに野球してるときは本気でかっこいいの。そんなの見たら惚れちゃうよね。

まぁ、普段の田島がそんな学校一かわいい子を落とせるとは思わないけどね。でも本気のあんたはかっこいいから、ほんの少しの望みを見込んで、応援、してあげてもいいよ。

と一緒にいんの面白れー!」
「私も田島と一緒にいると飽きないよ」


だから田島、私が世界一かっこいい人に恋してるの、 応援してくれますか?
 

無理なお願い