突然からメールで呼び出されたかと思ったら10分後にやっぱり来なくていいって送られてきて、でもそのあとにやっぱり今すぐ来いって言うからチャリ漕いでわざわざ行ってやったのにあいつはまだ待ち合わせ場所に来てなくて。自分から今すぐ来てって呼び出したくせになんだよとオレは不機嫌になりながらもを待っていた。

しかし、しばらく待ってもあいつが現れる気配がまったくしないので、もういっそ帰ってしまおうかとも思ったけれど、そうはしなかった。帰らなかったけれど、このままずっと待ち続けるのも限界だったので携帯を取り出してに電話しようと思った。携帯を取り出してコール音が2,3度響いたところでやっとあいつが姿を現した。「おっせぇよ」と言いながらパチンと携帯をしまう。は俯いたままツカツカと歩いてきて、オレの正面で止まった。そしてキッと顔を上げると、

「泉のばかっ!最低!大っ嫌い!」

そう叫んであいつはグーで思いっきりオレの顔を殴ってきた。見事なストレートがオレの鼻に決まる。いきなり何すんだよ!とか、やべ鼻血出たかもとかより、一番動揺したのはが目いっぱいに涙を溜めていたことだった。それまでずっと泣いていたみたいに目は真っ赤に腫れていて、それでもまだ足りないみたいに溢れていた。泣かないように唇を噛みしめていたけれどそれすらも無意味だった。オレはあいつの泣き顔に驚いて驚いて、動けなくなってしまったのだ。だから今も間抜けにたらたらと鼻から血を流している。って、オレ格好悪ぃ。今のオレはきっとものすごく格好悪い。ぐっと手の甲で拭って前を見る。手に血がこびりついたけれど気にしない。はもうすでにたったか走り去っていた。

「おい、ちょっと待て、!」

ばかってなんだよ。最低ってなんだよ。大嫌いってなんだよ!意味分かんねぇ。オレが何したんだよ。それくらい教えろっつの。ばか最低大嫌いって言って思い切りオレを殴ってお前は満足だろうけど、こっちは全く状況把握出来てないんだよ。とりあえず、追いかけなきゃと思った。ただ、それだけ。いきなり殴られて鼻血まで出たけれどきっとオレは怒ってもいいんだろうけど、あいつをそのまま放って帰ろうなんてそんな気は起きなくて。それはきっとオレがのこと好きだからだ。あいつには大嫌いと言われて殴られまでしたけれど、きっとまだ好きなんだ。

!」って呼ぶとあいつは走ったまま振り返って「なんで追いかけてくるのよぅ」とまだ涙声で言った。

「いきなり呼び出されて最低呼ばわりされて殴られて黙っていられっかよ」
「大嫌いなんだからついてこないで」
「だから理由言えって」
「泉なんか美人さんがお似合いだー」
「意味分かんねぇし!」

理由は分からないけれど全速力で走る。の背中にぐんぐん近づく。抱きしめるために伸ばした手はまだ届くだろうか。


 

掴み取れ