私が道を歩いていると珍しい人と出会った。びっくりしすぎて一瞬声を掛けようかどうしようか悩んだ。悩んでいるうちに向こうも私に気付いて目が合ってしまったから、何でもないふりをして、無邪気を装って声を掛けてみた。

「あ、泉だ」
「なんだ、か」
「泉が昼間こんなとこ歩いてるの珍しいね。部活は?」
「今日はねーんだよ」
「どこ行くの?」
「コンビニ」
「へぇ、私も一緒」

適当にちょこっと世間話をしてそのまま別れると思ってたのに、思いがけず行き先が一緒で少し気まずくなる。小中高と同じだったのに、中学からずっとあまり喋らなくなってったから。高校もたまたま同じだけれどクラスも違うし接点もないからその関係は変わらなくて。今では幼馴染だったというだけの宙ぶらりんな関係。そういえば小学生の頃はよく泉とキャッチボールしたなぁなんて思い出した。私はへたっぴだったけれど。昔はよく一緒に遊んでいたのに、泉の隣を歩くのが懐かしい。いったいいつの間にそんな風に思うほど長い時間が経ってしまったんだろう。

「なんかとこうして喋るのも久しぶりだよな」

私は彼が言ったその瞬間なぜだか泣き叫びしたい気持ちになった。満月の闇が心に満ちるみたいに。私はずっとこうして彼と喋りたかったのだ。本当はずっとずっと一緒に居たかったんだと気が付いた。私はさびしかった。こんな風に思うのおかしいかな。

私は泉のこと、好きじゃないのに。

泉はかっこいいから。特に野球やってるときなんかすっごく楽しそうに笑って、キラキラ光ってて、すっごくかっこいい表情してる。だから、もてる。みたい。あんまり詳しく知らない。知りたくなかったけど。私だって今まで他の誰かに恋してたじゃないか。泉のことは好きじゃないよ、ただの幼馴染だよって自分で言ってたのに。

「お前、泣いてんの?」
「な、泣いて、ない」
「泣いてんじゃん」
「泣いてない、ってば」

彼から顔を背けてごしごしと袖で目元を拭った。こんなことしてバレバレだって分かってる。分かってるけど、「なんで嘘吐いてんの?」泣きたくないの。泉に涙、見せたくないの。だからそうやって覗き込まないでよ、ばか。

「…うっ、うっ」
「やっぱり泣いてるじゃん」
「泣いて、ない、もん」

出来ることなら、本当は大声を上げて泣いてしまいたかった。小さな子どもだった頃みたいに。ぐしゃぐしゃになるまで泣きじゃくって、そのうち何がそんなに悲しかったのか分からなくなってしまうくらい大泣きしたかった。でも今、私が泣き出しちゃったら泉はきっと、何泣いてんだよって呆れ顔で言うに決まってるから。びぃびぃ泣いてうざい、とかも言われそうだ。絶対嫌な顔する。だから、泣かない。もうすでに泣いてるなんて認めない。

「いずみぃ、」

本当は昔みたいにこーちゃんって呼びたいよ。だけど、その権利はもう幼馴染にはないよね?それはこーちゃんの隣の特別な誰かのものだよね。

「おー、よしよし」

そう言ってもう片方の手で私の頭をなでる。ちょっと屈んで私と目線を合わせる。なんだか私、ちっちゃい子になっちゃったみたいだ。いつからだったっかなぁ、私が泉のことをこーちゃんって呼ばなくなって、こーちゃんが私のこと名前で呼ばなくなったのは。時々私たちの昔を思い出してはさびしくなる。

「…ぶっさいくな顔」

泉は私の顔を見て吹き出した。つられて私も笑う。きっと、本当にぐしゃぐしゃなひどい顔してるんだろうなぁ。目を細めると最後の涙が目から零れて落ちた。

「いずみ、」
「ん?」
「ありがと」

でも、それでいいんだとも思う。 だって、私いま不幸せじゃないし。
 

コンビニララバイ