あなたのやさしいところがたまらなくいとしい。同時にそういうところが大嫌いだと言ったら、世の人に、なんて贅沢なと怒られてしまうでしょうか。


「アイス食べたいな」

今年の夏は猛暑だ。クーラーを付けたばかりの部屋は全然涼しくなる気配を見せずに、ただの閉め切りの密室にすぎなかった。そんな中で私はぐでーと座りながら隣で梓の扇ぐ団扇の恩恵にあずかっていた。今まで無心に団扇を扇ぎ続けていた梓が私の呟きを聞き取ったのかこちらを向いた。

「んじゃ、今から一緒にコンビニでも行くか?」
「やだ、出かけたくない」
「そっか、じゃあ行ってくるから待ってろ」

そう言って頭をなでる。ほら。梓は優しすぎるよ。私がいくらわがまま言ったて怒らない。行かないと言った一瞬だけ悲しそうな顔をしたけれど、それもすぐにやさしい笑顔に変わって。そういう人は絶対損してると思う。梓は私がいくらわがまま言ったって、どんなに迷惑かけたって怒らない。優しくしないで、と言うのはそれこそ最大級のわがままだ。

「行かないでよ」

という言葉は私の舌の上で転がっただけのはずだった。絶対聞こえてなかったはずなのに。私の耳にだって届かなかったのに。部屋のドアノブに手をかけた彼はそこで振り返って、ずいと私に寄る。

「甘えたいならいくらでも甘えていいけど」

そう言って私の頭をぐしゃぐしゃとなでる。

「ただ、そんな顔するくらいならやめとけ」

お前らしくないよ。

それだけ言って「行ってくる」と今度は本当に部屋を出た。パタンと完全にドアが閉まる音がしてから私は膝を抱えてうずくまった。ダメになってしまいそう。私は本当にわがままな子なのに。いつもいつも彼に助けられてるのに。こんな風に、寄っかかってたら、もうひとりで立てなくなっちゃうよ。楽なんだもん。甘えるのに慣れちゃったら、あなた以外考えられなくなっちゃう。どんな嫌な私でも、それでも受け止めてくれるあなたといるのはとても楽なんだもの。

「ばかじゃないの」

こんな暑いのに、私のためにひとりでアイス買いに行くなんて。一緒に行くの嫌だとか言ったらキレるでしょう、普通。なんで何事もなかったかのように待ってろなんて言うの?言っとくけど、私どこも怪我とかしてないよ?具合悪いわけでもないし。暑さでぐでーとしている以外は健康そのものだよ?それなのに、私のために。どこまでお人好しなの?ばかだよ、ばか。本当に私は。くやしい、あなたを試そうとした私が憎い。



いやな子ごっこ

どうして、なんでも分かっちゃうの?