ず

オレは今日、上機嫌で登校した。普段は憂鬱ってわけじゃないけれど、授業で当たる日だとか、前日つい夜更かしして眠い日とかは学校行くのが若干だるかったりする。けれども、今日はそんなことはまったくなくて、むしろ早く学校に行きたくて仕方なかったりする。オレにとって今日は特別な日だからだ。

「おはよー!」

…あと、少し期待もしてるからだ。

「おう、。はよー」

後ろから肩を叩かれたので、オレは緩みきった顔のまま振り返る。するとそこには予想した通りがいた。…泉がその半歩後ろに立っていたのは予想外だったけれど。なんで泉がそこにいんだよ!なんかすっげー呆れた顔で見られたんですけど!もしかしなくてもオレ今ものすごく格好悪い表情してたか?でも、それも仕方ないだろ?今日はオレの誕生日なんだから。好きな子から何かプレゼントもらえるかなとかそういう期待するのは当然だろ?

「ほら、浜田も急がないと遅刻するよー!」

はオレに何を手渡すでもなくそのまま教室へ向かって走って行ってしまった。あれ…?スルー?そのままボーっと突っ立ってたら泉に「遅刻してーの?」とまた呆れた顔で見られた。その瞬間チャイムの音が響いた。
 

 れ


そのあとの休み時間もに変わった様子、例えばオレにプレゼントを渡す仕草だとかは全くなかった。っていうか、昼休みに「そういえば浜田今日誕生日だろー」となぜだか嬉しそうに言いに来た田島たちと一緒に、

「誕生日おめでとう」

って普通に言われた。しかも「用意し忘れたからこれあげるね」って言ってのど飴を手渡された。いつものポケットに常備されてるやつ。本当に用意してないことが丸分かりだ。田島と三橋でさえ、オレに購買で買ったパンをくれたっていうのに!ふたりでひとつだけど。それも三橋と田島が羨ましそうに見てくるから半分ふたりに分けてやったけど。

「ありがと」

そう言って飴を受け取る。そのとき手と手が触れるかなって期待したけど、かすりもしなかった。飴一個。それでも何ももらえないよりマシだ。オレ少し期待しすぎたのかな?…期待、しすぎたよな。オレとは付き合ってるわけでもない。オレの片思いで。でもちょっとは脈ありかなーとか思うときもあったのだけれど、それも勘違いだったっぽい。
 

 た

「田島ー、は?」
「ソッコーで帰った!」
「マジで?」

放課後、もしかしたらもう一回から話しかけられるかなーと期待していたのだけれど、それすらも叶わないらしい。放課後こっそり呼び出されてプレゼント渡されたい!なんて望んでない、もう一回おめでとって言ってもらえるだけで良かったんだけどなぁ。やっぱり欲深いのは良くないな。オレはの誕生日にプレゼントあげたからお返しに何かもらえるかなーとか思ったけど!もし、ちゃんと祝ってほしかったんならその前に告白しろってことだろう。うん、これ前に泉に言われた言葉だな…。

「浜田帰んの?」
「んー、今日もバイトだし」

と、言いつつもギリギリの時間まで教室でねばってた。でもやっぱり奇跡は起きなかった。当たり前か。

 二



そんな感じでオレの誕生日もあと数時間を残すところとなった。やっとバイトを終えててくてくと家までの道のりを歩く。街灯や星月の光が妙にさびしく見えた。やべ、そんなこと考えてると涙出そう。の声が聞きたい。「はまだ」オレ好きなんだよなぁ、のことが。でもって、誕生日にいつもと変わらない態度をとられるとさびしくなる。人間だから仕方ない。それが本音だ。他の人にとっては何の変哲もない日だろうけど、オレにとっては特別だから。それを好きな人にも同じ様に思ってしまうのは仕方ないだろ?たとえ片思いだとしても。「浜田」ん?幻聴?

「浜田…!」

呼ばれたことに気付いて振り向くと、そこにはがいた。幻聴でも、幻でもなくて、多分本物。なんという偶然。もしかしてこれが神さまからオレへの誕生日プレゼントなのだろうか。神さまありがとう!

?!こんな時間にこんなところで何してんの?」

驚いてそう聞くとはムッとしたような表情をして「そんな決まりきったこと聞かないでよ」と言った。そうして、


 人



「はい、プレゼント」

そう言ってかわいらしくラッピングされた包みを手渡された。
 

 の


「今日朝寝坊して慌ててたら忘れてきちゃって」

ん?これってもしかして、



 タ



「でもどうせ学校じゃ渡せないからいっか、と思って放課後急いで家帰ったんだけど」

もしかして、



 イ



「学校戻ったらもういなかったし、家行っても留守だったし」

期待しちゃってもいいってことだろうか。は寒さのせいか頬を少し赤らめている。
 

 ミ


オレは今すっごく嬉しかった。諦めていた分すっごく。が本当に別のプレゼントを用意していてくれたこともだし、明日でもいいのにわざわざ家まで取りに行ってくれたことや、この寒い中オレを待っててくれたことも嬉しかった。もしかして、今日一日そのことばかり考えていてくれたのかな?そう思うと自然に頬の筋肉が緩んだ。


 ン


「改めて、誕生日おめでとう」
「…オレ今人生で一番幸せかも」

オレは思わず抱きしめてしまった。嬉しすぎて。

 

 グ

(2008浜誕/か子)