隣のクラスの子が通りがけに「フミキー、ポッキーあげる」と声をかけた。「おーサンキュー!」と文貴が答えて。それはいつもと皆と同じことのはずなのに、今日は昨日よりふたりが仲良いように見える。気のせいかな?「あの子水谷に気があるんじゃない?」昨日友達が言っていた言葉が頭をよぎった。そんなまさか。中学時代もあんな感じでよく文貴にお菓子あげる子はいたけど誰も文貴と付き合った子はいなかったよ?「付き合わなかっただけで、その子はあいつのこと好きだったのかもよ」うそだぁ、あの文貴に?と笑いながら言うと「そういうあんたも水谷のこと好きでしょーが」と言われた。全くその通りである。それを思い出して私の心臓はざわざわ変な風に揺れた。

文貴があの子に手を振って別れる。文貴が振り返ってつい目が合ってしまった。盗み見していたみたいで決まりが悪かったけれど、彼はすぐへにゃって表情を崩して、それからてってけこっちに寄ってきた。

ー、いーなー何食べてんの?」
「クリームパン。朝ご飯だよ」
「ひとくちちょーだい」

そう言うと首を伸ばして食べようとする。普通だったら思いっきり文貴の頭をひっぱたいたり、少なくとも取られないようにパンを持った手を引っ込めたりするのに、出来なくて。さっき気前よくポッキーをあげてた子の影がちらついて、文貴は私とあの子を比べるんじゃないかって思っちゃって。意識しちゃってバカみたいって思うのに。 文貴は私が動けずにいるのをいいことにぱくって私のクリームパンをかじる。しかもクリームたっぷりのとこ。ひどいよ。

「今、ポッキーもらってたじゃん」
「えーあんなの1本じゃ足りないよ」

「あ、飲み物もちょーだい」私がさっき買ったばかりのいちご牛乳も飲まれる。それってもう完全に間接ちゅーじゃんか。間接ちゅーだよ。文貴はそういうの気にならないの?そりゃ小さい頃からずっと当然のように飲みまわしとかしてきたけどさ。私たちもう高校生だよ?小学生じゃないんだよ?ちょっとは気にしろよばか。私は、こんなにも頬が熱い。

「あれ?顔赤い。熱?」

そう言ってのぞき込んでくる文貴の顔をまともに見れなくて、目をそらす。文貴が何のためらいもなく私の食べかけのパンをかじり、私の飲みかけのいちご牛乳を飲むのは、私を女の子として意識してないからだっていい加減気付け!きっと私と間接ちゅーなんて気にしたこともないんだ。今現在距離が近いこともきっと気にしてない。
ただ私だけが今ひとり頬を赤らめて俯いている。
 

その手の中のもの