「先輩は俺のことが“好き”ですか?」

 このように尋ねられるのはもう何度目だろう。私は作成途中だった書類から顔を上げる。今年度新しく生徒会に入った一年生、ゼパル・ゼゼがにっこりと綺麗な笑顔をこちらへ向けていた。
 その笑顔は無垢で、無邪気で、純粋に私の答えを求めているように見えた。これが一度目ならかわいい後輩だなと思える。けれども同じ質問を一日一度繰り返されていたらうんざりもするだろう。
 「はぁ……」と深い溜め息を吐く私を見ても、彼はニコニコと笑顔を崩さなかった。彼がプロのモデビルだからか、それとも鋼の精神を持っているからか。

「先輩が俺を生徒会に誘ったでしょう?」

 それはあのとき一番手前に私がいたからだ。心臓破りでの活躍を見て、生徒会に勧誘することは決まっていたし、誰が声を掛けても良かった。あのド派手な告白ロードを歩くのは恥ずかしかったが、優秀な生徒を勧誘することは生徒会の仕事だ。そこに好きとか嫌いとか私情を挟むことはない。

「あのねぇ、何度も言うけど、私があなたのファンだから誘ったとかじゃないから」

 何か誤解しているのではないかと、改めてはっきりと告げる。彼の家計能力のことも知ってはいるが、だからといって今私が愛を与える必要はないのだ。
 振り向いて正面から彼に向き合うと、真っ赤な瞳と目が合った。その瞳がしばらく私を射抜いたあと、細められる。

「貴女が俺を拾ったのだから、最後まで面倒を見てください」
「ひろっ……!?」

 誤解を生むからそんな犬猫、もしくはヒモ男のような言い方をしないでほしい! 
 もうこの後輩は私の手には負えない。助けを求めて振り返る。

「ジョニー先輩!」
「新二年生が新入生の面倒を見るのは良いかもな」
「ギョ!」
「ナフラまで……!」

 ナフラは新入生のヴィネくんの勧誘に成功し、今も積極的に後輩の面倒を見ている。ジョニー先輩の言う通り、これまで私が先輩方に指導してもらったように、今度は私が後輩を指導すべきだ。それはそうなのだけれど、この流れで言うと変な感じになってしまったではないか。

「というわけで、先輩、よろしくお願いします」
「ぐっ……!」

 にっこりと期待を込めた瞳で言われると断れない。後輩が出来るのは楽しみにしていたし、指導して立派な生徒会メンバーに育てたいとは思うけれど。
 私が言葉に詰まっている間に、パッとゼゼくんが私の両手を取る。

「まずは“好き”と言葉にするところから! 愛を綴った手紙でも可!」
「やっぱりこれは何か違くない!?」

 生徒会室に響いた私の叫びに、今度は誰も顔を上げてくれなかった。

2023.07.13