「俺のことは?」
「好き……」
「では、俺は?」
「好きです! 好きだから……っ!」

 両側から聞こえる声に、私はベンチの真ん中でさらに小さく身を縮こめた。右手はゼゼくんに、左手はもうひとりのゼゼくんに握られていて、逃げることが出来ない。
 ――高位魔術“分身”でふたりになったゼゼくんは、ベンチで私を真ん中に挟んで両側に足を組んで腰掛けていた。
 私の言葉に、ふたりのゼゼくんはフフンと満足そうに笑う。

「こんなことに高位魔術を使うべきじゃないと思うんだけど」
「ウチはそういう教育方針なんですよ」

 声がステレオで聞こえる。普通なら耳がおかしくなってしまったと思うところだけれど、今は本当にゼゼくんが私の両側で喋っているのだ。
 自分がふたりに増えればふたり分の愛を受け取れるからとか、云々。

「つまり、これも俺の溢れ出る才能ゆえ! 貴女が魅了されるのも仕方のないこと!!」

 “魅了”という言葉にドキリとする。ゼゼくんは私の『好き』という告白は彼の魔力の増幅のため、そして私の気持ちはファンのそれだと思っているようだけれど、本当は違う。恋愛的な意味で好きだったりする。彼が愛を受け取るのを当然と思っているせいか、とんでもなくひどく鈍感なおかげで、私の本当の気持ちはバレていないけれど。

「ねえ、ゼゼくん、もう良いでしょ!?」
「まだまだ!」

 いい加減離してもらわないと、ドキドキのしすぎで死んでしまいそうだ。ただでさえ、今の彼は物理的に普段の二倍だというのに。

「ほら、こっちを見て」
「ヒェ……!」

 頬に手を添えられ、無理矢理右を向かされる。彼とのあまりの近さに、顔を思い切り背けると、今度は反対側のゼゼくんと目が合う。逃げたと思ったのに、追い詰められている。本当にこの魔術はやっかいだ。

「ああ、俺の顔面偏差値が高いばっかりに……!」

 顔を背けた一番の理由は単純な近さだったのだけれど、ゼゼくんの顔が整っているからというのもあながち外れていないのが悔しい。
 後ろからピタリと、もうひとりのゼゼくんが体を寄せる。両肩に手を置いて、背中に彼の胸がくっついている。耳の横にある彼の顔の気配がくすぐったい。目の前にもゼゼくんの顔。両手を握られて、ずいとその綺麗なかんばせを寄せられるともうどこにも逃げられなくなった。

「俺を見てください」

 双子などではなく、魔術で作った分身はどちらも自分のはずなのに、彼はそんなことを言う。どちらもゼゼくんで、彼からしたら私がどちらを見ても同じだというのに。きっと、顔を赤くさせて口ごもる私を見て彼は面白がっているに違いない。そう思ったのに、視線を上げた先にあった彼はどろりと溶けるほどに甘い顔をしていた。

「さあ、愛を!!」

 彼の熱をはらんだ二対の赤い瞳がまっすぐにこちらを見つめている。
 もう、こんなのおかしくなってしまう。

2022.04.17