「ゼゼくん、好き! 大好き!」
放課後の中庭に、私の愛の告白が響き渡った。
彼が愛を糧にする悪魔であることは知っている。そうでなくとも彼は今をときめく新鋭モデビルだし、女の子から絶大な人気がある。
何故彼が私の告白に首を縦に振ったのか分からない。彼は愛に困らないはずなのに。私が告白したタイミングでちょうどお腹が空いていたのか、気の迷いか、いつでも愛をくれる常備菜としてちょうどいいと思われたのか。
ゼゼくんの彼女になってから、こうして放課後の中庭でベンチに隣り合って座るのが日課になった。爽やかな風が吹き抜けるここは居心地が良く、彼の細い髪をさらっていく。
「本当にだいすきなの」
きっと振られるだろうと思っていた。けれども意外なことに彼は私を“彼女”の位置に置いた。オーケーの返事を聞いたときは夢ではないかと思ったし、そのあとは彼には彼女と呼ばれる女の子が沢山いるのではないかと疑った。しかし、少なくとも“彼女”と呼ばれる女子生徒は私ただひとりであるようだった。
「そうでしょう、そうでしょう!」
いつも当たり前に受け取られる愛の言葉。彼が受け取った愛をぞんざいに扱うことはないと分かっているけれど、私はもうそれだけでは満足出来なくなっていた。他と同等では嫌。“彼女”なら“特別”がほしいと思ってしまった。悪魔の女の子は恋に欲深いので。
「さあ、もっと! 遠慮せずに!」
目の前の彼は嬉しそうに頬を紅潮させ、腕を広げてさらなる愛を請う。彼のそういうところがかわいいと思うけれど、今日こそは言うと決めたのだ。ゼゼくんからも好きと言ってほしい、と。
面倒くさいことを言ったら彼に嫌われちゃうかも。そう思うのに、もう気持ちを隠すのは限界だった。胸の前で組み合わせた手をきゅっと握りしめる。
「あのね、ゼゼくん……」
「おっと! 貴女の言いたいことはすべて分かっています! そう、言葉にしなくとも!!」
手に持った扇を広げ、私の顔の前に手のひらを向けて言葉を遮る。まだ何も言っていないのに。
「ゼゼく――むっ!」
絶対に分かっていないだろうと、ついムッとして彼に反抗するように口を開けると、今度は彼の人差し指で唇を押さえられた。
それに驚いて目を丸くさせていると、彼の綺麗な顔がずいと寄せられる。その赤い瞳に私だけが映っていた。彼の前髪が風で少しだけ乱れて、私の額をくすぐる。
「俺も」
耳元で甘く囁かれ、背筋がぞくりとした。パッと距離を取って、まだ彼の吐息の熱さの残る右耳を両手で押さえる。
何かを言いたくて、でも何を言ったらいいか分からなくて口を開いたり閉じたりぱくぱくさせていると、彼がその赤い瞳を細めてひどく楽しそうに笑った。
2022.04.16