「また負けた!?」

 小テストの答案用紙を握りしめてサブロのところへ行くと、彼の答案用紙には当然のように私よりも高い点数が書かれていた。
 今回は自信があったというのに。

「サブロのくせに!」
「これくらい基礎の内容だろう」

 脳筋タイプだと思っていたのに、悪魔学校に入学してから彼はめきめきと成績を伸ばしていた。
 彼の高い得点が書かれた答案用紙とは対照的に、私のものは平均よりもちょっと上くらいだった。

「魔王たるもの勉学ぐらい出来なくてはな」

 入学当初は私と同じ位階だったはずなのに。彼はいつの間にかどんどん位階を上げて、私の手の届かないところへ行ってしまう。
 サブロがすごいやつなのは知っている。魔王になるためにどんなこともやってきた男だ。勉強はもちろん、体を鍛えることも怠らないし、ピアノだって弾ける。クラスの女子も位階の上がったサブロを「いいよねー」なんて噂している。彼はいつの間にか思慮深くなっていて、思いついたら即行動の私に付いてきてくれなくなった。うちの親含め、周りの悪魔はブレーキ役が出来て良かったなんて言うけれども。

「ヌシも少しくらい勉強した方が良いぞ」

 それだけ言ってサブロは立ち去ろうとする。
 そんなことくらい私も分かっている。周りから言われるまでもなくサブロを見習って位階を上げる努力をするべきだと。けれども私はその助言を受け入れることが出来ずにいた。
 ただでさえサブロは師団活動や学校行事などで忙しく、一緒に遊ぶ時間が減ってしまったというのに。それなのにこれ以上だなんて我慢出来るわけがない。

「まって!!」

 俯いたまま、サブロの服の裾を掴む。振り払われたらきっと敵わなかっただろうけれど、サブロはちゃんと立ち止まってくれた。
 正直、これを言うのはひどく悔しいのだけれど。

「勉強、おしえてください……」

 下を向いていた私はこのときサブロがどんな表情をしていたのか知らない。ただ、ふっと彼が笑ったような音が聞こえた。

「いつもそれくらい素直だったらいいのにな」

 サブロの手のひらが頭の上に乗せられる。
 それに私はうるさい、と憎まれ口を叩くことも出来なかった。
 

2020.11.08