最初は見間違いだと思った。
 今日はリードと久しぶりに一緒に帰る約束をしていた。寄り道して、繁華街のゲーム屋で新作ゲームをチェックして帰ろうと話していたのだけれども、私の方に急遽師団の招集が掛かってしまった。リードに頭を下げ、この埋め合わせは必ずすると言い残して、師団室へ向かったのだった。
 ――だから彼はとっくに帰っていると思ったのに。

「リード?」

 校門の前で、首に巻いたマフラーに半分顔を埋めるようにして彼は立っていた。制服から少しだけ出した指先を擦り合わせている。
 私の小さな声を拾い上げたのか、彼が顔を上げてこちらを見た。視線が合うと、彼の表情がぱっと花の咲いたように明るくなる。

「待っててくれたの?」

「いや、今さっきまでイルマくんたちと一緒でさ。でも皆用事を思い出したらしくて丁度分かれたところで! そしたら君の姿が見えたから」

 そう言うリードの鼻の頭は真っ赤になっている。一体どれくらいの間ここに立っていたのだろう。
 イルマくんたちもこんな寒い日に外で何時間もクラスメイトとお喋りしたりしないはずだ。

「待ってたのは……うん! 君が駆けてくる数十秒だけだよ」

 そう言ってリードが笑う。
 すぐバレるような嘘を付いてまで待っていてくれた彼がいじらしくて、いとおしかった。

「ありがと」
「お礼を言われるようなことは何もしてないけどね! ほら、早く行こう」

 そう言って歩き出す彼の隣に並んで、手を繋ぐ。びくりと驚いたように彼の体が一瞬強ばる。リードの手はやっぱり冷たくなっていて、私の熱を分けるようにぎゅっと繋ぐ手に力を込めた。

「あのね、先週発売した新作が気になってるんだけど」
「ああ、あれね……! 結構評判良いみたいだし、難易度選べるから君にもちょうどいいと思うよ!」

 帰る約束をしたときも嬉しかったけれども、今はそれよりももっと嬉しい。ふふと思わず笑い声とともに白い息が漏れた。

「リード、だぁいすき」

 こっそりと囁くように伝えると、今度は彼の耳まで真っ赤に染まった。

2021.02.21