「ああ、すっかり理解出来ました。ありがとうございます」
「いや、大したことは教えていないよ。さすが、飲み込みが早いなぁ」

 そう言ってロビン先生がにこりとこちらへ微笑みかける。
 私は気を抜けば緩んでしそうな口元を隠すのに必死だった。

「いつもお手を煩わせてしまってすみません」
「迷惑になんか思ってないから安心して。むしろ君の着眼点は鋭くてこちらも教えがいがあるというか」

 ロビン先生の授業は一言も聞き漏らすまいと集中して臨んでいる。もちろん予習も復習も欠かさないし、より深い質問出来るよう書物を読み漁り、少しずつ専門的な知識を蓄えている。狙い通り褒められてぽっぽっと頬が火照った。

「勉強熱心な子は大好きだよ!」

 この言葉が聞きたくて彼の元まで通っていると言っても過言ではなかった。
 彼にとって教え子以上の意味を持たないことは分かっていたけれど、時折お決まりのように放つこの言葉はまるで心を惑わす魔法のように私の中へ染み込んだ。

「ありがとうございます」

 先生の机の上に広げた教科書や参考書を集めて胸に抱える。
 そしてなるべく礼儀正しく美しく見えるように頭を下げた。ロビン先生にとって私は数多くの生徒のうちのひとりでしかないのは分かっているけれども、少しでも良い印象を持たれたい。

 顔を上げると、にこにことひどく楽しそうに笑う先生の瞳と目が合った。

「また明日ね!」

 毎日来ているわけでもないのに。先生の迷惑にならないよう、そして不審に思われないよう、ロビン先生に質問に来るのは日を空けるようにしている。それなのに、先生が明日必ず会うような言い方をするものだからドキリとした。また明日も会いたいという私の心を見透かしたように思えて。

「……失礼します」

 ひらひらと手を振る彼に再び頭を下げて退室する。ピシャンと扉が閉まったのを確認してから、ふーと大きく息を吐く。

「ロビン先生……」

 思わず彼の名前を呟いた。
 先生も私に会いたいと、そう思っていてくれたのなら良いのに。
 

2020.10.27