帰ろうと思っていたら、知らない男子生徒三人組に声を掛けられた。

「ね、良かったらオレらと一緒に遊んでから帰らない?」
「えっと……」
「ゲーセン行こうと思っててさ。キミ暇そうにしてたし」

 全然暇じゃないですけど!?
 ナンパ……いや、これはカモにされているのだろう。一人が「前からかわいいなと思っててさ」なんて調子の良いことを言っているが、多分このままゲーセンまでついて行ったらお金貸してとか言われるに違いない。そして、貸したら二度と帰ってこないに違いない。
 逃げようと思ったけれども、いつの間にか三人に行く手を阻まれていて隙がない。しかも、あたりには教員の姿どころか、生徒の影もない。

「いや〜」

 どうやって断ろう。他に人がいないからか、彼らの誘いも強引だ。引き攣った笑いで誤魔化しながら良い断り文句を探していると、ぐいと手を引かれた。

「ダメ、彼女は先約があるから」

 驚いて振り返ると、プルソンくんがいつの間にか後ろに立っていた。彼のことだから、私が気配に気付かなかっただけで、ずっとそばにいたのかもしれない。

「プルソンくん!?」

 思わず名前を呼ぶと、彼は静かにこちらへ視線を落とした。

「いつまで油売ってるの。いくよ」
「う、うん!」

 彼に手を引かれるまま、その場を離れる。断り文句は必要なくなった。ちらりと振り返ると、男子生徒は突然現れたプルソンくんに驚いたのか、ポカンと口を開けて目を丸くさせていた。先ほどまでの強引さはすっかり鳴りを潜めていて、思わずくすりと笑ってしまった。
 プルソンくんと約束なんてしていない。きっと、あの場から私を助け出す方便だったのだろう。あんなふうに会話に割り込むことも、私の手を掴む力の強さも、黙って前を歩き続けるのもプルソンくんらしくない。
 彼に手を引かれて歩いていると、中庭に吹く風が頬を撫でて心地良い。さっきまで途方に暮れていたのが、まるで嘘のようだった。
 そのまま校門を出て一緒に帰るのかと思っていたが、不意にプルソンくんがぴたりと足を止めた。

「……ごめん」

 そう言って小さく謝るものだから、今度は私がびっくりする番だった。彼の後ろ姿から先ほど男子生徒を前にしたときの堂々とした様子は失われていた。肩を落として、実際よりも彼が小さく見える。

「えっ、どうして謝るの?」
「いや僕今完全に調子乗ってたよね。さっきはナンパ野郎に対する怒りに任せて冷静じゃなかったっていうか。何が先約だよ、約束なんかこれっぽっちもしてないし。勝手に連れ出すし。今どこに向かってんだよって感じだし。ホントごめん忘れて」
「忘れないよ!」

 彼の言葉を遮って大きな声を出す。先ほどは何も喋れないでいたけれども、今は絶対に言わなければ後悔する。

「助けてもらって嬉しかったから!」

 素直な気持ちを伝えると、私の言葉を真正面から受けた彼の顔がみるみるうちに赤く染まっていった。

2023.06.04