「プルソンが私に言いたいことあるって本当?」
本人の目の前に立ってド直球で尋ねると彼は目を丸くさせて瞬きをした。
階段の踊り場。校舎の端のこの階段を使う生徒は少なく、周りに他の悪魔の影はない。腰に手を当て彼より数段上に立つと、全く何の話か分かっていなさそうな顔がこちらを見上げていた。
「姐さんが言ってたの」
彼の様子が何かおかしいのは分かっていた。でもきっと変なものを食べてお腹を壊したかとかと思っていた。さすがに二週間は長いと思ったけど。
そうではないと教えてくれたのはエリザベッタだった。
「プルソンが最近落ち着きがないのはきっと私に言いたいことがあるからだって」
本当は、だからプルソンがそれを伝えにくるまで待っていてあげてと言われたのだけれど、あいにく私はそれほど気が長くない。
「こら! 逃げるな!」
すぅーっと気配を消して逃げようとする彼の首根っこを捕まえて止める。ぐぇっと彼のうめく声が聞こえた。
「そう言うけどさ、そもそも君が――」
振り向いた彼と目が合う。言葉が途切れて、彼の目がまあるく見開かれていく。かすかに顔を赤くさせ、ぱくぱくと何かを言いたそうに口を開いたけれど、結局音にはならないまま彼は口を閉ざした。
「私が、なに?」
「……なんでもない」
ずいと彼に顔を寄せて尋ねる。すると彼はぱっと顔を背けて距離を取った。
一度喋り出すと一気に話すプルソンがこうやって途中で言い淀むのは珍しい。いつもはキュルキュルと聞いてないことまで喋り出すくせに。
プルソンとは仲が良いと思ってたのに。言いたいことがあるなら遠慮なく言えばいいのに。もし私に悪いところがあったなら、それも直すよう努力するのに。
「ここまできて何でもないわけないでしょ! 言えー!」
肩を掴んで揺すってもプルソンは口を閉ざしたまま。普段案外言いたいことは言う性格の彼がここまで頑なになることとは一体何なのか。
明かり取りの窓から蜂蜜のようにとろりとした黄金色の午後の陽が差し込んで彼を照らしていた。
「言ったら君は絶対困るから、嫌だ」
「なによ、それ」
勝手に決め付けてムカつく。何故だかぎゅうぎゅうと胸が苦しくなって、喉もきゅっと締まって絞り出すような声になってしまった。
「――君が言えって言ったんだからね」
プルソンが私の肩を掴んで正面を向かせる。そこには何か覚悟を決めたような表情の彼が、じっとこちらを見つめていた。
2021.08.29