「いやー、ごめんね。うっかり伝え忘れちゃった」

 語尾に星マークでも付けそうな調子でサリバン様が言う。
 魔界塔の執務室で私は恭しく頭を下げた。

「無事にお届け出来たので問題ありません」

 先日、初めて悪魔学校へ届け物をした際、教師数名に侵入者と間違われてしまった。しかしそれは私の顔が知られていなかったのが原因で、サリバン様ももちろん学校の教師も悪くはない。オペラ様の口添えもあって、無事仕事を完遂出来たので、何も問題はない。

「でも、君やるねぇ。悪魔学校の教師三人を相手にして無傷なんてさ」
「上手く避けただけですから。それに、あれ以上堪えるのは無理でした。皆さんがすぐ話を聞いてくださって助かりました」

 あのまま長引けば、私も無事ではすまなかっただろう。悪魔学校の教師だけあって、強さは桁違いだった。私は運が良かっただけだ。

「イフリート先生も感心してたよ」
「恐縮です」

 “イフリート先生”というのは確か炎を使っていた悪魔だったか。イフリートという家名からして多分彼で間違いないだろう。学校警備教師を担当していると聞いていた。そんなひとに褒められてこそばゆい心地がする。
 悪魔学校で誤解が解けたあと、教師の方々と少しお話させていただいたが、確か彼は一歩引いたところで煙草を吸いながらそれを眺めていた。それなのに、そんなことを言っていたなんて少し意外にも思った。

「サリバン様、魔関署からの依頼の件、明後日で調整いたしました」
「分かった」
「それと、こちらにもお目通しいただきたく。一枚目のみで結構です」

 サリバン様へ確認をお願いすると、彼は手渡した資料にさっと視線を落とした。
 その隙に、扉近くに控えるオペラ様を振り返る。

「オペラ様も、あのときはありがとうございました」
「私は何もしていませんよ」

 いつもオペラ様には助けられてばかりだ。サリバン様の優秀なSDで、彼がいるときは大体私の出番はない。魔界塔では私が、それ以外はオペラ様という役割分担だ。魔界塔でのあれやこれやは熟知していても、サリバン様の様々なお手伝いに関しては、まだオペラ様に及ばない。近々、オペラ様にお世話になったお礼をお渡ししなくては。
 サリバン様から読み終わった資料を受け取ると、彼はまた悪戯っ子のように目を輝かせた。

「今回で悪魔学校の教師たちに君の顔も知れ渡っただろうし、またお使いお願いしちゃおっかな〜!」
「はい、必要なことは何なりとお申し付けください」

 ニコニコと笑顔で言うサリバン様に、私は胸に手を当て頭を下げた。

「私は魔界塔の秘書官ですから」

2023.01.14