「これ食ったか?」

 ひょい。

「こっちも美味いぞ」

 ひょいひょいと、私の前に置かれたお皿の上に料理がどんどん取り分けられていく。

「あ、あのね、ジャズくん……」

 食べても食べても減らない。それどころかこうして彼に声を掛けている間にもまるで泉から湧き出るかのように増えていくのだ。

 隣に座るエリザも斜め向かいに座るリードくんも最初は微笑ましいとでも言うような顔で見ていたのが、段々大きくなる山にその顔が青ざめていった。
 後ろを通りかかったケロリがこちらを覗き込んで「あ〜」と諦めたような声を置いていく。ひとつ向こうのテーブルではイルマくんがこれの何倍もの料理をそのお腹に収めているけれども、私はそんなふうに食べられそうになかった。

「ジャジー、ジャジーってば!」

 リードくんが彼の腕を掴んで揺する。その間にも私のお皿にはお肉がひとつ追加された。

「料理盛りすぎ! ほら見て、困ってるじゃん!」

 その言葉にジャズくんがハッと我に返ったようにぴたりと動きが止まる。私の目の前にこんもり盛られた山と、きっと少しぎこちなく笑っている私を見比べて、彼は決まり悪そうに笑った。

「あ〜……悪い」

 謝るほどのことでもないので何だか逆にこちらが申し訳なくなる。

「ふふ、ジャズくんは彼女に対して本当に面倒見が良いのね?」
「うっ……」

 今回のように料理を取り分けてくれるだけじゃなく、普段から色々声を掛けて私に対して彼はあれこれ世話を焼いてくれる。これで下の兄弟がいないというのだから驚きだ。

「嫌なわけじゃないよ! ジャズくんがくれるの全部おいしいし」

 取り分けてくれた料理はどれも本当においしくて、ずっと食べていたいくらいなのだ。それは間違いない。ジャズくんからもらったものなら喜んで食べたい。ただ、全部きちんと食べ切れる量かと言われると不安なだけで。

「それ、こっちくれ。残りは俺が食べるから」
「そんな、悪いよ」
「俺がよそったやつだし、大丈夫」

 そう言って彼は私のお皿からまだ手を付けていない部分を口の中へ放り込んでいく。あっという間に山盛りのお皿が減っていくから男の子はすごい。

「男の子は沢山食べるわね〜。貴方もやっぱり沢山食べる殿方が好き?」
「ブッ……!」

 エリザの言葉に何故かジャズくんが咽せる。大丈夫かと心配したけれど、彼は私の答えを待つようにこちらをじっと見つめていた。その期待の込もったような目に、何となくそわそわしてしまって、彼から視線を逸らす。

「えっ……そうだね……いっぱい食べる人は男らしい、かも」
「そうよね。ふふ、私もそう思うわ」
「リード! そっちもくれ!」
「わっ、ドロボー! 僕だってまだまだ食べれるんだけど!? すみませーん、おかわりください!」

 何故だかふたりで張り合うように食べ始める。そんなに焦らなくったって私たちのテーブルの上にはまだまだ料理は残っているのに。
 変なふたりと思っていると、不意にジャズくんの手が私の皿に伸ばされる。

「あっ、ジャズくん待って! それ、私がかじったやつ……」
「ゴホッ……!」

 ジャズくんが先程よりも盛大に咽せる。私のかじりかけなんてやっぱり嫌だったよね、もっと端に避けておけば良かったと思っても後の祭だ。

「ジャズくん大丈夫?」
「だい、じょーぶ……」

 彼は下を向いたままこちらにピースサインを見せる。全然大丈夫そうに見えないけれど、リードくんはお構いなしにものすごい勢いで食べ続けている。

「男の子って単純ね」

 エリザはテーブルに突っ伏したジャズくんから視線を移してこちらを覗き込むと、ふふと楽しそうに微笑んだ。

2021.07.27