「貴様、何故彼女の隣に……!」
「あ、アズくんたちも食堂でごはん?」

 食堂にやってきたアズくんは私とその隣に座るゼゼくんを見て、目を丸くさせた。そんなにゼゼくんと一緒にいるのが意外だったのだろうか。そんなことを思っているとゼゼくんが身を乗り出して前に出た。

「偶然、廊下で先輩と会ったのです。すると、先輩の方から一緒に食事をどうか、と」
「お互いひとりだったから」

 私の方もいつも一緒にごはんを食べる子が師団の用事があってひとりで食べるところだったのだ。ひとりで食べるごはんは味気ないし、ゼゼくんもひとりならと思って誘ったのだけれど。

「先輩はいつも俺に優しい」
「あはは、お昼に誘ったくらいで大袈裟だよー」
「ぐぬぬ……」

 満足そうな表情を浮かべるゼゼくんとは対照的に、アズくんは悔しそうな顔で唸っている。多分、自分の後輩が他の上級生と仲良くしているのが複雑な気分なのだろう。彼は懐に入れたひとを大切にするタイプだから、あり得る話だ。

「そう言えば、イルマくんとクララちゃんは?」
「ふたりは少し用事があると言うので、私が先に席取りに」

 姿が見えないいつものふたりを疑問に思って尋ねるとそんな答えが返ってくる。
 先程からアズくんは怒った顔と困った顔を繰り返していた。

「もしかして他の問題児クラスの子も来たりする? 私たち移動して席空けようか?」
「それは良い考えです。ささ、行きましょう、先輩」

 そう言ってゼゼくんは私の手を取ると、おまけのようにその手の甲にキスを落とした。ファンサービスに慣れているモデビルはすごい。流れるような自然な仕草に感動すら覚えた。

「貴様ァ、その手を離せ!」

 アズくんは怒ってゼゼくんの手を私から払い除けると、私の手をぎゅっと自分の方へ引き寄せた。私は強い力にバランスを崩して、アズくんの胸に倒れ込む。慌てて離れようとしたのだけれど、そのまま後頭部を押さえつけられてしまった。

「んん! アズくん、苦しいよ」
「す、すみません! 大丈夫ですか!?」
「レディの扱いが分かっていませんね」
「あ?」

 ゼゼくんの言葉にアズくんが突っかかる。ゼゼくんの言い方もあまり良くはないけれども、アズくんの方も随分と短気だ。

「アズくん、どうしたの? ゼゼくんとは心臓破りで仲良くなったんじゃないの?」

 心臓破りのときのふたりはなかなか上手くやっているように見えた。アズくんの方もゼゼくんを後輩として可愛がっているように見えたし、ゼゼくんの方もアズくんを先輩として慕っているように見えた。それなのに、いつの間にか仲が悪くなっている。

「それとこれとは別問題です!」

 そう言って彼が私の隣に腰掛ける。もう二席空いているから、このテーブルで食事を取ることにしたのだろう。ランチは皆でわいわい食べた方がおいしいから、大歓迎だ。大歓迎、なのだけれども……。

「アズくん、左手握られてたらごはん食べられないよ」
「離したくありません」
「ゼゼくんも、右手そろそろ離して?」
「何か問題でも?」

 左手をアズくんが、右手はゼゼくんが、それぞれ握って離さない。何を言っても、ふたりはにっこりと綺麗な笑顔を見せるだけ。
 結局イルマくんとクララちゃんがやってくるまで、私はお昼ごはんを一口も食べることが出来なかった。

2022.11.06