私たちは付き合い始めるまでが長かった。
 自分の気持ちを自覚してから、あれ?もしかしてアズくんも私のこと好きなのかな?いやでもそんなわけない……というループを長いこと繰り返して、やっと告白して付き合い始めたのが先週のこと。
「あの、アズくん、この距離って普通なのかな?」
「何がだ?」
 恋人同士というものは向かい合って話すとき腰を抱くものなのだろうか。彼の手のひらが触れる脇腹がくすぐったくてぞわぞわする。
 私たちは放課後ふたりきりの教室でお喋りを楽しんでいるだけのはずだった。
「何って……。この、手、とか……」
 そう言って彼の手に視線を落としてみせる。彼もそれに合わせて視線を向ける。
 改めて見ると自分たちの距離が近すぎることをはっきりと認識してしまって顔がまた熱くなる。
「ん?」
 アズくんが軽く微笑んで首を傾げてみせる。そんな顔をされたらもうこれ以上何も説明出来なくなってしまった。というか、私のこの真っ赤な顔をみたら分かりそうなものなのに。
 世の恋人同士はふたりきりのときはこんなふうにくっついて過ごしているものなのだろうか。誰かと付き合うのはこれが初めてだから分からない。
 クララちゃんとハグしたときはこんなに全身熱くならなかったし、心臓もこんなに突き破りそうなほどドキドキしたりはしなかったのに、なんてことを思う。同性の友達とアズくんは違うのに。
 彼との距離を保つために無意識のうちに前に出していた手が掴まれる。隔てていたものがなくなって、さらにぐっと体を引き寄せられた。
「ちょっ……! あの、アスモデウスさん、私こういうのあまり慣れてないのでね、もっとお手柔らかにしてもらえると助かると言いますか」
「そうか」
 言いながらアズくんがにや〜と笑う。何がそんなに楽しいのか。というか、本当に私の言ったことを理解してくれたのか。腰に当てられた手はそのままだし、近い距離は全然離れる気配がない。
「あの、アズくん!?」
「では、徐々に慣らしていかないといけないな?」
 耐性がないのなら慣れていく必要があるのはその通りなのだけれど。でもだからってこれは急すぎはしませんか!?
「ひ〜〜」
「そんな声を出しても無駄だぞ」
 そう言ってアズくんが私の頭を抱え込み、さらに全身が密着する。後頭部と腰に触れている彼の手も、くっついたほっぺたに触れる彼の胸も全部全部が熱い。こんなに火傷しそうなほど熱いのに、これにいつか慣れる日がくるのだろうか。

2023.10.25