――いつもより量が多い。
 私は目の前に出された料理を前に固まった。


 きっと直前がイルマくんだったから、配膳担当のひとが量を間違えたのだ。イルマくんの五倍盛りの料理を盛ったあとだから感覚が馬鹿になって、普通盛りのものを三割り増しで盛ってしまったのだろう。あんなに山盛りに盛ったあとなのだから普通を忘れてしまうのも仕方ないようには思う。

 普通の生徒だったらラッキーと思ったのかもしれない。――しかし、普通の量ですら食べきれず、いつも量の少ないメニューを頼んでいる私からすると死活問題だった。

「あの……!」
「オレのBランチまだー?」

 量を減らしてもらえるよう頼みたかったのに、後ろに並んでいた男子生徒に急かされ、言い出すことが出来なかった。そのまま列を押し出され、席を確保してくれていたクラスメイトの元へ。イルマくんとクララちゃんの向かい側、恋人のアズくんの隣に。

 そうしてしばらくもぐもぐとごはんを食べていたのだけれど――

「うっ……」

 案外限界は早くやってきた。いつもより多く皿の上に盛られた料理は食べても食べても減っていないように見えた。とってもおいしいのだから満腹を感じないうちに食べ切ってしまおうと頑張っていたのだけれど、それも意味がなかったようだった。

「どうした?」

 私の呻き声が聞こえたのか、隣に座っていたアズくんが覗き込んでくる。

「えっと、今日のランチはおいしいなぁと思って!」
「その割には進んでいないようだが?」

 バレている。

「でも、残すのは悪いし、もったいないし」
「もったいない……?」
「えっ、さすがにアズくんでも“もったいない”は知ってる、よね……?」
「馬鹿にするな」

 貴族には“もったいない”という概念がないのかと思ったが、そんなことはなかったらしい。

「貸せ」

 そう言って私の目の前の皿を自分の前に引き寄せると、私の食べかけのそれをスプーンで掬って大きく開けた口の中に放り込んだ。
 私はそれをぼんやりと眺めることしか出来なかった。
 ――私の食べかけだったのに。私の、食べかけ、だったのに!
 彼がそんなことをするとは思わなくて驚きと恥ずかしさで訳が分からなくなる。

「ヒュー! アズアズ彼氏じゃんー!」
「うるさい」
「アズくん、格好良いね!」
「当然のことをしたまでです!」

 目をぐるぐると回す私とは対照的に彼は何てことのないようにスプーンを動かす。食べても食べてもなくならない無限のように思えた料理も、彼の手に掛かるとあっという間に残り僅かになっていた。

「無理ばかりするな。少しは私を頼れ」

 また一口食べながら、彼が私の頭をくしゃりと撫でる。
 食堂という公の場でとてつもなく甘やかされている気がして、私は赤くなった顔を隠すように縮こまって彼の隣に座るしかなかった。
 

2021.09.21