「じつは、今週末、デ――ふたりで出掛けることになってな」

 そう顔を赤らめて話すアメリはひどくいじらしく、かわいらしく、そしてひどく残酷な言葉を私に聞かせた。

「それは……」

 アメリはロマンチストだ。それに自分自身も高潔で、強く美しい。だからきっと理想も高くて――きっと彼女の王子様は現実には現れないと思っていたのかもしれなかった。きっとその日は永遠に訪れない、と。

「アメリ」

 思わず小さく呼んだ彼女の名前は果たして本人の耳まできちんと届いたかは分からない。
 思わず彼女の白い手を握ってしまった。それはひどく遠くにいってしまいそうな彼女を繋ぎ止めたかったのかもしれない。握った彼女の手はまろやかですべすべしてやわらかく、そしてあたたかかった。

「!」

 私が手に触れると彼女はパッと顔を上げた。頬が薔薇色に染まり、期待に満ちた表情だった。きっと私が手を握った意味を勘違いしている。きっと、励ましか、感激の表れだと思ったのだろう。
 目が合った彼女に私はにこりと微笑みかけた。

「おめでとう」

 こういう日に備えて何度も何度も練習したおかげか、一度落ち着けば言葉は意識しなくても出てきた。
 私はアメリの“親友”なのだから、アメリの恋は応援しなくちゃいけないのに。それなのに、私ときたら。

「親友には一番に報告しなくてはと思ってな」

 そう言って彼女が笑う。


 ねえアメリ、私は正しくあなたのしあわせを祈ってあげられているかしら。

2020.10.17