「三好さんが酢豚のパイナップル食べれないって本当ですか?」

私が三好さんを顔を合わすなり突然尋ねると、三好さんはちょっと眉間にしわを寄せて嫌そうな表情をした。少し前までは、三好さんのすました顔しか知らなかったので私はこれも少し嬉しかったりする。

「そんなこと、どこで聞いてきたんですか」
「昨日甘利さんが教えてくれたんです。三好さんの弱点だって」
「また甘利の言うことを鵜呑みにして」

甘利さん曰く、三好さんは酢豚に入っているパイナップルの必要性が感じられないらしい。出てきてもさりげなくパイナップルを避けているだとか、彼の語る話は何故だか妙にリアルで説得力があったのだ。最初は話半分に聞いていた私もいつの間にか甘利さんの話を熱心に聞いてしまっていた。これは甘利さんの話術がすごいのか私がちょろすぎるのか、はたまた三好さんのプライベートが謎に包まれているせいなのか。

「あなたこの間もそうやって騙されたでしょう。忘れたんですか?」
「でもあのときは当たらずとも遠からずってとこだったじゃないですか」
「僕が世田谷に東京ドーム一個分の豪邸なんて持ってるわけないでしょう」
「でもかなりいいマンションに住んでましたよね?」

特別私が騙されやすいというわけではない、と思う。最近何故だか知らないがD課の連絡やら手伝いやら私にばかり押し付けられるようになって、D課への出入りが増えた。関わりが増えた人のことをもっと知りたいと思うのは自然なことだ。まぁ、それをD課の面々に多少おもちゃにされているというのは事実だが。

「酢豚のパイナップルは好き嫌いが分かれますし、苦手でも仕方ないですよ」

一般的にも存在意義を問われるような食べ物なのだ。料理に果物を入れるなんて理解出来ないという層は一定数いる。私だって、酢豚のパイナップルは食べられなくはないがこだわりもないので特別入れる必要もないのではと思う。

「で、本当のところはどうなんですか?」

結局は私も甘利さんの教えてくれたその話を信じきれていないのだ。あの三好さんに食べられないものがあるなんて、しかもそれが酢豚のパイナップルという少しかわいらしいものだなんて、簡単に信じられるはずがない。だからこうして本人に直接確かめることにしたのだけれど。

「さあ、どうでしょう」

そう言って三好さんは口元に綺麗な笑みを浮かべる。私生活が謎に包まれている彼らしいどこかミステリアスな魅力のある笑みだった。

「確かめたいのなら簡単な方法がありますよ。どうですか、今夜僕と一緒に食事でも」

その言葉の意味を理解するのにたっぷり数秒を要した。目を丸くして瞬きを繰り返す私を三好さんはなんてことのないような顔で見つめるものだから、私はさらになんて返したら良いか分からなくなってしまった。どうしてパイナップルの話からこんな話になってしまったのか、脳みその処理が追いつかない。

「か、軽い誘いですね……」
「嫌だな、誰にでも言うわけじゃありませんよ」

やっとの思いで口にした言葉も、それ以上の言葉でもって返される。「なにせ僕の弱点ですから」という彼の言い分はもっともだ。

「僕のこと、知りたいんでしょう?」

そう言われると私の答えはひとつしかなかった。

2017.05.31