ふと、ジッと花京院くんの背中を見つめてしまっていたことに気が付いた。単純に私の前を彼が歩いていたのもあるけれども、その隣を歩く承太郎は視界に入らず、ただただ彼を見つめていたことに気が付いて頬が熱くなった。どれほどの時間だったかは定かではないが、それこそ穴が空くほど見つめていたに違いない。キョロキョロと周りを見渡して、見つめられていた本人も、他の旅のメンバーも誰もそのことに気が付いていなかったことを確かめてホッとした。特にポルナレフにバレてしまったらなんとからかわれるか分かったもんじゃない。

さん? どうかしましたか?」
「えっ、あっ、何でもないの!」

ひとり熱くなった頬を手でぱたぱたと扇いでいるといつの間にか花京院くんが隣に来ていた。先ほどまではちゃんと承太郎の隣にいたはずなのに。私がずっと見つめていても気が付かなかったのに、何故か彼はこうもタイミングが良い。

「もうずっと歩き通しですし、そろそろ休憩しましょうか」
「私疲れてなんかないよ! 大丈夫!」

それは本当だ。そこそこの時間歩いたけれども、昨日の方がもっと長い時間歩いていたし、一昨日の方が気温が暑く体力を奪われた。それに比べたら今日は随分と楽な方で、強がりではなく本当に体はまだまだ元気だった。

「本当に大丈夫。ありがとう」

そう言っても花京院くんは納得していない顔で。こういうときの彼はきちんと本当のことを言うまでしつこい。でも本当のこと、『あなたを見つめていてぼーっとしてしまいました』なんて言えるわけがないから、トンと軽やかに一歩を踏み出して、顔を見られないように視線から逃げた。きっと、まだ頬は赤い。

「そこのふたり、どうした?」

話していたら少し皆から遅れていたらしい。前方からジョセフおじいちゃんが声を掛けてきた。

「ごめんなさい。何でもないの!」

花京院くんが何か言う前に私は大きな声でジョセフおじいちゃんに返事をする。隣の花京院くんは何かを言いたそうに口を開いたけれどもそれには気付かなかったふりをした。

「おお、もうこんな時間か。そろそろ休憩を挟むかの」
「敵の接近がないか、気を張って歩くのは想像以上に神経をすり減らすものだ。適度に休んだ方がいいでしょう」
「おっ、イイねー」
「そこで休むか」

ジョセフのおじいちゃんもアヴドゥルさんもポルナレフも承太郎も皆優しい。それでも花京院くんが一番だと思うのはそうあってほしいという私の願望が多大に入っているのかもしれなかった。敵がいつ襲ってくるか分からないというのにこんなことを考える私はどうかしている。

「あ、そこ足元気をつけて」

そう言って花京院くんが手を差し出してくれる。その手を取ろうか取るまいか一瞬だけ悩んだ。取ってもいいものか。こんな邪な気持ちを持っているくせに、彼のこの純粋な親切心を利用するようなことをしてもいいものか。転がり込んできた幸運にちょっとした罪悪感を感じていると、勝手に手が取られた。

まさか手を重ねられるのを待たずに花京院くんが私の手を握るとは思っていなかった。

恋をする女の子は誰も彼も皆図々しいものだと自分に言い聞かせた。自分のものよりも大きな手にドキドキする。旅の途中で本当はこんなことを考えている場合じゃないのに。それなのに、彼がこんなことをするから。私は惑わされてしまっているのだ。

2015.01.31