私は榎木津礼二郎が大嫌いだ。

私は向こう側で椅子にふんぞり返って座っている榎木津礼二郎を横目で見ながら思った。いかにも偉そうに座っている。彼は給仕の女の子を捕まえて延々と喋っていた。おそらく聞く価値のないくだらない内容か、私達常人には理解出来ないことだろう。なにしろ榎木津礼二郎は神だそうだから。

くだらない。馬鹿馬鹿しい。

私は榎木津礼二郎が大嫌いだ。いつだって人の話を聞かないし、答えて欲しいことには何ひとつ答えてくれない。私が話し掛けたって、聞いてるんだか聞いてないんだか分からない。こちらに興味がないのだ。それは態度から分かる。人の話は聞かないくせに、自分の話したいことは相手のことなどお構いなしに云う。とにかく意思疎通が出来ないのだ。彼に言わせれば自分は神なのだからその言葉を凡人である私達が理解できないのは当然のことらしい。

馬鹿にしているとしか思えない。

どうせ私などに話しても無駄だと思っているのだろうか。理解出来る、とは云わない。人の言葉など実は大した力を持っていないことを私は知っている。だからそんな大層なことは云わない。けれど私がほんの一部でも理解出来るようもう少し言葉を費やしてくれたっていいのではないかと思うのだ。どうして私に向ける言葉はこんなにも少ないのだ。

傲慢だ。言動が滅茶苦茶だ。自分勝手にも程がある。彼に何度も振り回されてきた。迷惑を掛けられてきた。挙げれば切がない。理由には困らないのだ。だから、私は彼が嫌いだ。

向こうにいる榎木津と目があった。そうして彼は一言云った。

「なんだ、僕ばかりじゃあないか」

私は榎木津礼二郎が、―――。
 

私は彼が大嫌いだった