なんとなくで依頼先に選んだ退治人だった。なんとなく見た目で強そうだと思って彼にお願いした。そのときの自分の目を、直感を信じて良かったと今ほど強く思ったことはない。


「危ないっ!」

 目の前には大きな男の人の体。私を庇うようにして立つ彼に覆われて、外の世界が見えなくなってしまう。
 まるで壁だ。
 両腕を私の頭の横について、後ろのちらりと振り返る彼の横顔にドキッとした。距離が近い。
 彼の向こうでは吸血鬼が退治されている音が聞こえる。

「大丈夫、ですか?」
「はい、何ともありません……」

 彼の腕に触れると、私の手が子どもの手のように小さく見えた。なんて男らしい……。
 新横浜の市民であったことに感謝した。

「すき……」
「えっ、何ですか?」
「何でもないです!」

 こんなタイミングで好きになってしまうなんて思わなかった。今までもサテツさんはいい人だなぁとは思っていたけれど、守られて好きになってしまうなんてなんて単純。単純だけれど、そう悪くない出会いだ。
 けれども、吸血鬼は先ほど別のハンターによって退治されてしまっている。つまり私の依頼は終了。サテツさんとの繋がりは切れてしまった。――でも、このまま終わりにしたくない。

「あの、サテツさんこそ怪我は大丈夫ですか?」
「ああ。これくらいは怪我のうちに入りませんよ」

 多分本当に怪我のうちには入らないのだろう。血も出ていないし。彼は頑丈だった。でも、それくらいで引き下がりはしない。

「お見舞いの品を持っていきたいので、連絡先を教えてもらえませんか?」
「いや、これくらい本当に大丈夫ですから」

 謙虚だ。そういうところも好き。

「私、料理が趣味なんです。作って持っていきますから」
「料理?」

 本当は趣味と言うほど頻繁に作ったりしないけど、普通のものは作れるし、何ならこれから趣味にしたって良い。
 遠慮していた彼が料理に食いついてきたのを見て、私も身を乗り出す。運良く彼のタイプを引き当てたかもしれない……!

「お好きですか?」
「食べるのは、はい。好きです」

 心の中でガッツポーズをする。少し期待とは違った答えだったけれども好きなものを聞き出すことには成功した。
 こんなにガタイが良いのだもの。食べるのが好きなのも分かる。ああ、早く彼が食事するところも見てみたい。きっと大きな口で食べるのだろう。すてき。

「他に好きなものはありますか?」

 ずいと身を乗り出して尋ねると、彼がわずかに上半身を退け反らせる。やりすぎてはいけない。分かっているけれども、早く、はやくと心が急いている。
 あなたのことがもっと知りたいの。

2021.10.23