「私の好みは薄味のイケメン! 退治人でいうと――」
背後でガシャンと物が落ちる音がした。
今まさに名前を言おうとしていた本人――ショットが驚いた表情で立っていた。
「誰だ!? ロナルド……はイケメンだけど薄くはないか。薄いとなると、サテツか!?」
「サテツに謝れ!」
びっくりしすぎて口から飛び出そうな心臓を押さえながら言葉を返す。反射でツッコミが出来るようになっていて良かった。
今まで私と話していた女子メンツはその様子をどこかにやにやしながら見ていた。気付いてたのにあえて黙ってたな。
「俺とお前の仲だろ、教えろよ〜」
「ちょっと、くっつくな!」
ショットが私の肩に腕を回して絡んでくる。
彼の顔を押して引き剥がそうとしたけれど、案外強い力で肩を組んでくるのでなかなか剥がせない。
これ以上の彼に触れられたら心臓が保ちそうにない!
「離れて……!」
今私が突っ張ってるこの手の力をゆるめたらどうなるのだろう――そんなことを考えながら彼の頭をバシリとはたく。
「やめなさい!」
「何だよ、そんな真っ赤になって怒らなくたっていいだろ」
彼は私の顔が赤くなっているのも怒りのせいだと思っている。
鈍感――というより私が自分のことを好いているなんて彼は考えたこともないのだろう。多分、女として意識してたら彼はこんなふうにくっついたり出来ない。
それを言ったら同性にもベタベタくっつくタイプじゃないくせに、どうしてこういうタイミングの悪いときばっかり。
「これから考えようとしてたの! もうショットのせいで忘れちゃった!」
「じゃあ改めて考えようぜ」
だから! なんで!
いつもこういう話題に積極的に入ってくるタイプじゃないくせに!
「いない! 退治人の中に私の好みはいない!」
こんな咄嗟にショット以外の好みの顔なんて思いつかない。どうして私はギルドでこんな話をしようと思ってしまったのだろう。こんな本人がいつ顔を出すかも分からない場所で。
こんなことなら最初から『ショットとか案外好みかも〜?』とか冗談めかして言ってしまえば良かった。言えるわけないけど!
「私パトロールの時間だから! さようなら!」
そう言って無理矢理彼の腕を振り解く。自分から逃れたくせに、離れてしまった熱を少し恋しく思う。
ギルドを出る前に振り返ると彼は不機嫌そうな顔をしていた。不満とさびしさと――ほんの少しの切なさが混じったような表情。
その表情の理由を早く教えてほしい。
2021.10.20