「先輩、怪我は大丈夫ですか!?」

 バァンと診察室のドアが開く。その音に驚いて振り返ると、後輩のサギョウくんが息を切らしてたっていた。
 怪我って何のことだ?

「――って、あれ?」

 パチパチと瞬きをして彼が我に返る。部屋の中をぐるりと見渡して、そうしてもう一度私と視線が合う。さらに、彼の視線は私を頭の先から足元まで移動して、また私の顔まで戻ってきた。それでも彼の驚いた表情は消えない。
 その場にいた医師が「じゃあそう言うことだから」とだけ言い残して部屋を出て行った。サギョウくんと私のふたりだけになる。

「先輩、怪我は?」
「ないよ」
「あの、先輩が病院に行ったって聞いたんですけど……」
「うん、付き添いでね」
「つき、そい……?」

 彼はそう小さく零すと、二度三度瞬きをした。そのあとすぐに何かに気が付いたのか、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

「はぁー……」

 怪我をしたおばあさんに付き添って病院に来ていたのだけれど、どこかで伝言ゲームのように伝わってしまったのかもしれない。人手が足りなかったので自分が病院まで来てしまったけれど、せめて言付けではなく自分で報告するべきだった。

「なんか心配させちゃったみたいでごめんね?」
「いや、すみません。僕こそ早とちりして」

 心配掛けたことを申し訳なく思っているのだけれど、実はちょっとだけ嬉しい。彼がこんなにも慌てて病院まで駆けつけてくれたことが。思わず上がってしまいそうになる口角を隠して、彼の隣にしゃがむ。
 きっとここまで必死で走ってきてくれたのだろう。彼の額には汗が浮かんでいた。
 サギョウくんが顔を上げると、距離がいつもより少しだけ近かった。

「良かったです。先輩が無事なら何でも」

 そう言って彼が表情をゆるめる。
 その彼の好意が私にはとても眩しかった。

2021.11.04