走れ、走れ走れはしれ――
 途中、息が苦しくなったけれども、それでも俺は足を動かし続けた。大型の吸血鬼を退治人数名で退治したあと。後始末でバタバタしている間に、彼女が病院に運ばれたとサテツから聞いた。一緒に退治していて、そんな怪我を負わせてしまったことに全く気が付かなかった自分を殴りたい。

「怪我は大丈夫か!?」

 診察室と書かれたドアを勢いよく開けると、そこにはポカンとした表情でこちらを見る彼女と医者がいた。

「ロナルド、どうしたの?」

 彼女は逆に心配そうな表情でこちらを見返してきた。あれ? 怪我をして、病院に搬送されたって……

「はい、これで手当てはおしまいですよ」
「ありがとうございました」
「お大事に」

 医者と彼女の和やかなやりとり。脇に立っていた看護師だけが、乱入してきた俺を睨みつけていた。その視線に気まずさを感じながら、軽く頭を下げ、彼女が診察室を出るのに俺も続いた。

「あの、怪我は?」
「私の? かすり傷だよ〜。近くにいた一般市民の方が転んで足を捻っちゃったみたいで、病院まで付き添ったんだけど、そのついでに私の擦り傷の手当てまでしてもらってただけ」

 自分でも手当て出来たんだけどお医者さんがやさしくてね、と話す彼女はいつもと変わらない。怪我をした腕も何でもないように動かしている。手当てしてもらった腕以外には怪我はないらしく、衣装もほとんど汚れていない。ただ、腕に巻かれた包帯の白さがやたら眩しく映った。

「ロナルド? どうしたの? 何か今日変」

 そう言って彼女が足を止め、こちらの顔を覗き込む。たったそれだけのことなのに、何故か叫び出したい気持ちになった。
 確かに今日の俺は変だ。

「怪我させちまって悪かったな」
「は? この怪我は別にロナルドのせいじゃないでしょ〜」
「でも俺は、お前が怪我するの、なんか嫌なんだよ!」

 そう言うと、彼女は目を大きく丸くさせた。彼女も同じ退治人だから、怪我くらい日常茶飯事だ。それを今までこんなにも心配したことはなかったのに。

「これからは絶対怪我させたりしないから」

 でも、今は胸の奥がざわざわするのだ。何故そんなふうに思うのか、理由は分からないけれど。

「俺がお前を守りたい」

 きっと、こんなことを言えば退治人の彼女は怒るかもしれない。そう思ったのに、目を丸くさせ、口をはくはくと開けたり閉じたりを繰り返す彼女の頬は今まで見たことのないほど赤く染まっていた。

2023.05.21