『ロナルドは病院に運ばれた』、『VRCに運ばれた』――その言葉を聞くたびに私の心臓は握り潰されたかのように痛くなる。

「ロナルドさん……!」

 彼がいるという部屋に飛び込むと、上半身を包帯で巻いた彼がちょうどベッドから起き上がるところだった。

「うお!? どうした?」
「あの、怪我したって聞いて……」

 ぎゅっと両手を握り合わせながら尋ねる。意識があって、起き上がれるということは生死を彷徨うような怪我ではなかったということだ。けれども、いつも彼の口から答えを聞くまでは心臓が痛いほど脈打っている。

「ああ、もしかしてこの擦り傷のことか? 医者もツバ付けときゃ治るって」
「本当ですか?」

 私が確認すると彼は軽く笑って腕を持ち上げて見せた。その腕には小さな絆創膏が貼られているだけだった。白い包帯が巻かれてもいないし、吊られてもいなければ、自由に動かせるし、血も滲んでいなかった。
 ギルドのメンバーも一緒だと聞いていたけれども、彼らの姿もなければ、ロナルドさんの相方であるドラルクさんの姿もなかった。

「でももしかしたら思いもよらないところにダメージを受けてるかも。精密検査してもらいましょう!」

 そう言って彼の怪我をしていない方の腕を引っ張って病室を出ようとする。けれども、彼の鍛えられた体は私なんかの力ではびくともしなかった。

「そんなに心配しなくても大丈夫だから!」

 笑いながら彼が言う。でも本当に臓器へのダメージは目に見えないのだし、念には念を入れたって……。

「って、心配させてるのは俺か。この前の怪我のせいだよな」

 彼の顔から笑みが引っ込む。
 私が異様に心配してしまうのは、彼の言う通り、この前の怪我があったかもしれない。たまたま私が通りかかった道で、吸血鬼を退治したあとの退治人の面々と会った。
 そこでロナルドさんの腕からダバダバと流れる血を見たときの気持ちは今もまだ鮮明に思い出せる。さっと足元から冷えて血の気が引き、生きた心地がしなかった。
 ――この人は、いつの日か、私の前から消えてなくなってしまうのではないかと。

「本当に今回は何ともないから大丈夫」

 優しく諭すように言われても、私は首を縦に触れなかった。そんな私の様子を見て、彼が困ったように笑う。
 あやすように私の右手を取ると、それを自分の頬へ当てた。

「怪我してないか心配なら、直接俺に触れてくれ」

 じわりと彼の体温が手のひらに移る。そのあたたかさに、胸の奥に詰まっていたものが溶けていくような気がした。「どう?」と尋ねられて、とっさに今の気持ちを何と言葉に表したら良いか分からず、「あの……」とだけ答えると、私の顔を見たロナルドさんが、安心したような表情でへにゃりと笑った。

2023.04.06