「危ない、下がって!」

 そう言って彼が私を庇うように前に出る。そして彼のひと蹴りで下等吸血鬼はあっさり退治された。それはもう見事に。今日のロナルドさんは私服で、武器も持っていなかったが、簡単に片付けてしまった。
 道を歩いていて突然下等吸血鬼が出てきたことにも驚いたが、それを彼が一瞬で片付けてしまったことにも驚いた。

「ロナルドさんって退治人なんですね……」
「えっ!?」

 つい思ったことがそのまま口に出た。彼の強張った顔を見て、自分が失言してしまったことに気が付いた。

「あ、いや、退治人なのは分かってたんですけど、最近はお仕事中の姿を見ていなかったので、新鮮な気持ちがしたというか……!」

 彼との出会いは、最初は退治人と依頼人の関係だった。だから、彼の退治人としての姿が第一印象で、そのときに吸血鬼を華麗に退治するところも見ている。でも、依頼が終わってしまえば、一般人である私が退治現場を目にすることは滅多になく、あの赤い退治人衣装より青系のジャケット姿を見る機会の方が多くなった。

「俺のこと何だと思ってたんすか……」

 彼がガックリと肩を落として言う。フォローしたつもりだったのに、余計に落ち込ませてしまったようだった。
 彼がすごい退治人であることは初対面のときに目の当たりにしている。決して忘れていたわけではないのだけれど。吸血鬼と遭遇しても、彼が必ず私を危険から遠ざけてくれるから、“退治の瞬間”を見る機会がなかったのだということもちゃんと知っている。

「普段の俺、そんなに情けないですか?」

 退治人の彼と普段の彼と、ギャップが全くないとは言わない。でも、情けないと思ったことはない。泣いてる姿はかわいいなと思ったことはあるけれど。
 ロナルドさんはロナルドさんで、退治人としての顔以外も素敵なところが沢山ある。けれども、それをどうやって、自分のこの気持ちに気付かれないまま上手く伝えようかと思案していると、両肩を掴まれた。顔を上げると予想よりもずっと近い位置にロナルドさんの顔があった。

「どうやったら、あなたに“格好良い”と思ってもらえますか?」

 真剣な瞳がこちらを見つめている。びっくりして見つめ返すと、一瞬遅れて彼の顔が真っ赤に染まった。

「あの……、いつも格好良いと思っていますよ……?」

 「えっ?」と彼が驚いた声を漏らしたのが聞こえた。けれども、視線を合わすことが出来ずに、私は明後日の方向へ顔を向けた。
 自分の顔が言い訳出来ないほど赤くなっている自覚はあった。

2023.01.09