恋人の部屋でいかがわしいDVDを見つけてしまった。

「……」

 決して家主が不在の間に見つけてやろうとしたわけではない。偶然机の引き出しが少し開いているのに気が付いた。中途半端に開いているのは気になるので、閉めようとしたら中で何かが引っかかっているのか閉まらない。仕方なしに一度引き出しを開けて閉め直そうとしたら、中の一番上にこれが入っていたのだった。

「なるほど……」

 何がなるほどなのか分からないが、何となく呟いてしまった。ロナルドくんがおっぱい好きなのは知っていた。私だけでなく新横中が知っているのではないかと思う。こういうDVDや本の趣味は様々な吸血鬼の退治を通して皆に知られているのだ。このDVDのパッケージに描かれているのも胸の大きな女性だった。大きくて柔らかそうな胸に思わず釘付けになってしまった。
 特別衝撃的な新事実が出てきたわけではない。けれども、こういうものを手に取ってまじまじと見る機会もなかったので、興味深い。手首を返してパッケージの裏を見ようとしたときだった。

「ただいまー」
「えっ」
「あっ……」

 コンビニから帰宅したロナルドくんと目が合う。彼の視線が下がったかと思えば、私の手元でピタリと止まる。バレた。

「あの、これは! 机の引き出しがちょっと開いててね!」

 決してロナルドくんがいない間に探してやろうとか、プライバシーを侵害する行為をしたわけではないのだと慌てて弁明するも、ロナルドくんは目を見開いて私の手元を見つめたまま。気まずい。
 というか、冷静に考えれば引き出しを開けて一番上に置いていたロナルドくんも悪いのでは? 大方へんなさんに渡されて、一時的に机の引き出しにしまって、そのまま忘れてたパターンなのだと思うけれど。

「こ、これはへんなが押し付けてきて、とりあえず机の引き出しにしまったら忘れてただけで……!」

 我に返ったらしいロナルドくんが私が思った通りのことを言う。分かりやすくて困る。咄嗟のことでなければ、ロナルドくんはきちんと隠しておくタイプに見える。ドラルクさんには見つかってそうだけど。

「嫌いにならないで!」

 ウエーンと涙を流しながら彼が言う。“嫌いにならないで”と言うのは、勝手に引き出しの中身を見てしまった私が言う台詞ではないのか。

「き……嫌いになんかならないよ」
「今の間は!?」

 そう言ってロナルドくんがまた焦る。どうやら彼は私が彼氏がこういうのを見ていたら嫌な気分になるのではないかと思ったらしい。嫌いにならないのは本当だ。いくら恋人でもタイミング良く会えるとは限らないし。『私がいるのに』などとは思わない。男の人はそういう処理が必要だと知っているし。せめて簡単に見つからないようにノートの下とかに挟んでほしかったなとは思うけれど。

「本当にへんなに押し付けられたんだ! 信じてくれ……! それに最近はそういうDVDもめっきり使わなく――」
「そうなんだ?」

 何気ない言葉を返すと、ロナルドくんはピタリと動きを止めた。

「ああああああ」
「何なになに!? 今度はどうしたの!?」

 彼が急に足元に蹲る。何か私がしてしまったのかと思ったが、ただ何の変哲のない相槌を打っただけだ。とりあえず、DVDを持ったままなのがいけないのかもと思って、机の上に置いた。

「俺は最低野郎です……」
「よく分かんないけど顔上げて。大丈夫だから、ね?」

 ロナルドくんの横にしゃがみ込んで宥めるように背中を撫でる。

「別にDVDのこと何とも思ってないよ。私はあんなふうになれないし」

 パッケージに印刷されていたお姉さんを思い出す。比べることすらおこがましい。
 つい思ったことをそのまま口に出せば、ロナルドくんがパッと顔を上げて両手で私の肩を掴んだ?青い瞳がまっすぐに私を射抜く。

「そんなことない! 十分エッチだ!!」
「え?」
「あ゛……」

 しまったと言うように、ロナルドくんが口を押さえる。その顔はすっかり青ざめていた。

「アハハ。一応彼女だしね、うん」
「消えてなくなりたい……」

 何と言っていいか分からなくて乾いた笑いを漏らせば、ロナルドくんはさらに丸くなってしまった。言い方を間違えた。笑って誤魔化すのではなくて、きっと素直に気持ちを伝えるべきだった。

「……ねぇ、ロナルドくん」

 名前を呼んで、彼の頭から耳へ指先を滑らせる。
 言い方はあけすけだったけれど、好きな人に魅力的に映っているのだったら、悪い気はしない。彼のふわふわの髪を撫でながら、どうやったら彼がもう一度顔を上げて、私の真っ赤な顔に気付いてくれるだろうと、そればかりを考えていた。

2022.08.22