「こ、告白されたぁ!?」
「何よ、そんなに驚かなかったっていいじゃない」
「でも、だって」
まるで信じられないとでも言うように狼狽えるその顔を一睨みする。ロナルドはびくりと肩を震わせ、大人しく黙った。
「っていうか、毎回よく驚けるよね」
告白されること自体は珍しくない……というほど頻繁にはないけれど、これまで数回あった。それを話すたびにこの男は大袈裟に驚くのだ。最初のときなんか椅子から転がり落ちていた。
どうやら私のことをモテない仲間だとでも思っているらしい。ロナルドはファンが沢山付いているくせに、自分がモテないと何故か思い込んでいる。それに比べたら私がモテないのは事実だけれど。
「ファンの人だって。断ったよ」
私が告白されるのは退治人というご当地アイドル的な側面あってのことだ。ロナルドがファンの子を数に含めないように、私もファンの男性とは付き合うつもりはない。相手のことをよく知らないし、何となく本当の私を見せたら幻滅されそうで。
「そ、そっか……」
そう言ってロナルドがあからさまにほっとした表情を見せる。顔を赤らめ、ぴょんぴょんと汗も飛んでいる。私はそれを見て何となく面白くない気分になって、ストローからズズズと音を立ててオレンジジュースを飲み干した。
「良かったな、ロナルド!」
「ショッ――」
「ちょっと、ショット! 良かったってどういう意味よ!?」
人の不幸を喜ぶなんてひどいじゃないか。ロナルドだって良かったと口に出したりはしないのに。いくら態度でそう思っているのが分かったとしても、直接口に出すのと出さないのとではまるで違う。
「まぁまぁ、俺もお前たちの行く末を心配してるんだって」
「だああああ!!」
突然ロナルドが叫んでショットの口を塞ぐ。うぐぐとショットが苦しそうな声でロナルドの腕を叩いている。指の隙間から「もう何も言わないから!」と何とか声を出している。
ロナルドはショットを解放すると、不意にくるりとこちらを振り返った。もうその顔は真っ赤だ。そんなにショットの軽口にムキにならなくても良いのに。
彼は視線を右上から左上へと彷徨わせたあと、じっと私の目を見つめた。何だろうと不思議に思って見つめ返すと、彼の青い瞳が瞬いた。
「えっと、お前にはもっと良い男がいるって。……例えば俺とか」
「ハハ」
「ウエーーン!!」
彼の冗談に乾いた笑いで返すと、ロナルドはついに泣き始めた。そこまで強く当たったつもりもないのだけれど。ロナルドは優しいし良いやつだけど、自分で“良い男”と言うのが似合わなすぎて、つい笑ってしまった。もしかして本気だった?
「ロナルドならそのうち彼女出来るって」
背中を丸めて泣いているロナルドの頭を撫でると、潤んだ瞳がこちらを見上げる。情けない顔をしているかと思ったのに、意外にも強い視線が私を射抜く。
「えっ?」
「今に見てろよ!!」
ロナルドはそう捨て台詞を吐くと、ギルドのドアを勢いよく開けて飛び出していく。私はそれをぱちくりと瞬きしながら呆然と見送ることしか出来なかった。目を閉じるとまだあのロナルドの瞳の青が瞼の裏に見えるような気がした。
2022.08.14