チョコミントのビールがあるらしい。その情報を目にした瞬間、私は“これだ!”と思った。

「じゃーん! ロナルドくんのために買ってきたんだよ」

 名付けて、『ロナルドくんを酔わせて本音を聞き出しちゃおう作戦』だ。
 お酒があまり強くないロナルドくんでも、好物のチョコミント味のビールとなればガブガブ飲んでくれるに違いない。酔えば口が軽くなり、私をどう思っているのか話すかもしれない。ついでにその前後の記憶も消えてしまえば万々歳という完璧な計画なのだ!

「チョコミント味!?」

 案の定ロナルドくんはチョコミントビールに夢中になっている。単純だ。
 共通の友人たちにこの作戦のことを話すと、「失敗する予感しかしない」「そんなことするくらいならストレートに告白しろ」などと言われたが、告白出来るものならもうとっくにしている。

「結構な本数買ったから、気に入ったら好きなだけ飲んでいいよ」
「マジか!」

 何故こんな単純な作戦を今まで実行しなかったのか!
 チョコミントビールを手に入れるのに苦労したけれども、彼がこれほど喜んでくれるのならその労力も報われるというものだ。

「うめー!」

 彼はニコニコ顔でビールを喉に流し込んでいく。この分なら彼が酔うまでさほど時間はかからないだろう。
 もしこの作戦が上手くいって、彼が私のことを好きだと分かった暁には、私はこの長年の片想いに終止符を打つ。今日こそは。今日こそは……!

「ささ、ロナルドくんもう一杯どうぞ」
「おー、さんきゅー」

 もう十分酔ったか? まだ足りないか?

「おまえ全然のんでなくね? ほら」
「あ、ありがと」

 ロナルドくんが律儀に私のグラスに注いでくれる。私のグラスには先ほどまでウーロン茶が入っていたのだけれど、洗ってないからちょっと混ざっちゃったかな。
 彼に勧められるままに一口飲む。

「えー! おいし!」
「だろ?」

 チョコの甘い香りとふんわりミントの爽やかさが残る後味は意外とビールに合う。ビールの苦味はあるけれども、飲みやすい。
 あっという間に一杯飲み切ると、ロナルドくんが次の一杯を注いでくれる。それもすぐに空にしてしまった。
 彼はそろそろ十分酔っただろうか?

「わたし、ロナルドくんに聞きたいことがあって……まって、このチョコおいしい!」
「それ、おれの最近のおきにいりなんだよなー!」
「ロナルドくん天才!!」


 最後に聞こえたのは「ただいまー……」と誰かが帰ってくる声。早くロナルドくんに私のことをどう思っているか聞かなくちゃと思ったけれど、瞼は重くてどうしても開かなかった。右側がぬくぬくとあたたかくて心地よく、私はそちらへ擦り寄ると、そのまま夢の中に落ちていった――

  *

「だから失敗する予感しかしないと言っただろうに」
「ヌー……」

2022.02.02