家の方向が一緒だからという理由で、彼女と並んで歩いていた帰り道。
「かわいいな」
口をついて出た言葉に、俺自身が一番驚いた。
えっ、かわいいって、彼女が?
言われた当人は「ですよね。パンダの赤ちゃんって本当にかわいいんです」と見当違いのことを返している。俺がかわいいって言ったのはパンダじゃなくて、にこにこと嬉しそうに話す女の子の横顔――って!
そりゃ彼女はいい子だし? あの個性強めの退治人集団の中で常識人だし? 一緒に話していて楽しいっていうか、心地良いっていうか。
でも退治人仲間で、後輩で、今までそんな目で見たことは一度も……
「ぐおお」
自分の中に突如湧き出た感情に混乱して頭を抱える。完全に奇行だが、そんな俺を見ても彼女は「ふふ」と鈴が転がるような笑い声を零すだけだった。
天を見上げると星がきらきらと瞬いている。新横浜の夜空って、こんなに綺麗だったっけ。
「そんなにパンダの赤ちゃんが気になるなら一緒に見に行きましょうか?」
「えっ!? いいの?」
すごい勢いで食いついてしまったけれど、彼女はそんな俺にもやさしく微笑んだ。
彼女のこの表情は何度も見ているはずなのに、今日は胸が高鳴る。ドキッとして、心臓が甘く痺れるのは嫌じゃなかった。
「もちろんです。公開したての今は混んでるかもしれないですけど」
「いい! 気にしない!」
これってもしかして彼女も俺に――
「明日ギルドで他にも行きたい人いないか聞いてみますね!」
……人生はそう上手くない。
でも、皆で一緒に出掛けてもいいと思えるくらいには俺にも気を許してくれているのだろう。嫌われていないだけ、マシだと思おう。
実際のところ、彼女は俺のことをどう思っているのだろう。彼氏がいると聞いたことはない。もし、ほんの少しでも俺にも可能性があるのなら。
「私もパンダの赤ちゃんを生で見てみたいなと思っていたから」
こちらへ視線を上げた彼女と目が合う。すれ違った車のヘッドライトが、彼女の表情を照らした。
まるでステップを踏むように軽やかに、トンと彼女が一歩前に出る。くるりと振り返った彼女は「ロナルドさん」と俺の名前を呼ぶ。
「ロナルドさんとお出掛け、楽しみです」
――ああ、俺はこの子が好きなのか。
本当に楽しそうに口元をゆるませる彼女に、あまりにもすとんと恋が心に落ちた。
2021.12.31