私の部屋に遊びにきていたロナルドくんの、お行儀良く膝の上に置かれた手がふと目に留まった。
 落ち着かない様子で座る彼を解きほぐすためのちょっとした雑談のつもりだった。

「ロナルドくんの手って綺麗だよね」
「へ、あ……?」

 吸い寄せられるようにその手を取った。恋人なのだから、これくらいのスキンシップは許されるはずだと内心ドキドキしながら触れる。
 突然の話題に彼がついていけていないうちに彼の手を引き寄せて、光にかざすようにしてまじまじと見る。

「大きくて指は長いし、爪も縦長で綺麗な形だし」

 ごつごつしているけれども男の人の中ではすらっとした手だと思う。もっとも、彼は手以外の部分も整っていてる。綺麗だけれども男らしい手。
 自分は手フェチではないはずだったけれども。

「いいよね」

 私の手よりもずっと大きいそれをふにふにとマッサージするように触れる。普段仕事を頑張っている彼への労りと、少しでもリラックスしてくれるように。
 彼は作家業もしているけれど執筆はパソコンなので固いペンだこなんかはない。でも手のひらに何かのマメはある。全体的に私よりも皮が厚い。
 見慣れているはずだったのに、改めて見るとこんなだったのかと気付くことが沢山ある。

「俺の手なんかより、アナタの手の方が綺麗です」

 それまで黙ってされるがままになっていたロナルドくんが口を開く。
 そう言ってロナルドくんが手のひらをくるりと返して私の手を握る。
 彼の指が絡んで逃げられなくなった。ぎゅっと恋人同士が手を繋ぐように。

「えっと……無遠慮に触りすぎちゃったかな? ごめんね」
「小さくてすべすべしてるし、爪もなんかぴかぴかしてるし」

 ――止まってくれない!
 私の手を握った指の腹ですり、すり、と手の甲を撫でられる。その触れ方に背中がぞくりとした。
 彼の視線がこちらに注がれているのが分かって、顔が上げられなくなる。ロナルドくんが今どんな表情をしているのか気になったけれども、それ以上に恥ずかしさがまさった。

「俺とは全然違う……」

 囁くような声にそっと視線を上げると、熱っぽい瞳でこちらを見つめる彼と目が合う。
 その頬は真っ赤に染まっていた。

2021.11.20