「私が真面目、ですか……?」
「そう。このショットさんに言わせれば、ロナルドに対して真面目すぎると言わざるを得ない」
もっと適当でいい、とやけに真剣な表情で退治人の先輩が言う。つい耳を傾けてしまったのは私がロナルドさんに好意を持っているから。もし何かまずい態度でも取ってしまっていたらどうしようと不安になったからだ。
私たちの会話が聞こえたのか、近くにいた吸血鬼がこちらを見て、にんまりと口角を綺麗な三日月型に上げて笑う。
これは碌なことにならないな、と思った。
「たまには嘘を言ってからかってみるとかどうだね?」
「いいね!」
何にも良くない。
「そんな、突然嘘を吐けと言われても出来ません。内容も思いつかないし」
「例えば『ロナルドさんよりショットさんの方が百倍格好良い!』とか」
「それ自分で言ってて虚しくならないか?」
ショットさんは嘘を吐くという前提をもう見失っている。
もう行っていいかなと自分のグラスを手に取ったところで、後ろから明るい声が降ってくる。
「あれ、皆で何の話してたんだ?」
こういうタイミングの悪いときに彼はやってくるのだ。いつもだったら好きな人と話せる機会に喜んだけれども今日ばかりは恨んだ。
「ロナルドくんが来たぞ! ほら、早く! 言うなら今だ!!」
ドラルクさんが後ろで煽ってくる。この人が言うと何だか焦ってしまって、本当に今言わないとという気持ちになってしまう。この吸血鬼はそういう能力に長けている。
トンと軽く背中を押されてロナルドさんの前に立つと、もうすっかり訳が分からなくなってしまった。
「ロナルドサンよりショットサンの方がヒャクバイカッコイイ!」
嘘が下手とか演技力がないとかを通り越した棒読みだったけれど、私の言葉にロナルドさんはぴたりと動きを止めた。
さすがに嘘だとバレたかと思っていると、不意にじわりと彼の目に涙が浮かんだ。
「それってつまり、俺のこと嫌いになったってことか……?」
そう言ってぽろぽろと大粒の涙を流す。
彼の中で一体どんな論理が組み上がったのか。
「嘘です! 冗談です! ロナルドさんは新横一、いえ、宇宙一格好良いです!」
力強く言うと彼がこちらを見て視線が交わる。涙に濡れている彼の瞳はきらきらと綺麗で目を奪われた。
「ホント……?」
「本当です!」
そう言ってロナルドさんの頭をやさしく撫でる。彼のくせ毛はふわふわと触り心地が良かった。
「もう! ふたりが余計なこと言うからロナルドさん泣いちゃったじゃないですか!」
そう言って振り返るとさっきまで座っていた場所に人影はなかった。
「付き合いきれないな」
「関わるんじゃなかったぜ」
「ちょっと!!」
元凶たちはそれぞれメロンソーダのグラスとホットミルクのカップを持って向こうへ行ってしまう。ふたりがけしかけたくせに!
追いかけたかったけれど、今はロナルドさんの頭を撫でるのに忙しい。
「もう、次あったときはただじゃおかないんだから……」
でも私に撫でられて大人しくしているロナルドさんはかわいくて、そこのところはちょっとだけ感謝してもいいかもしれないと思った。
2021.04.01