「あっ」
「あっ……」
驚いたようなふたつの声が重なる。ひとつはコンビニに行った帰りなのか、ジャージを来たロナルドさんのもの。もうひとつが私のものだ。私の方は声色に驚きと気まずさも混じっていたけれども。一瞬表情が強張ったのを隠して、にっこり笑顔を作る。
「お買い物の帰りですか?」
「ん? ああ、そう! 近所のヴァミマでチャンピオンが売り切れてて」
新横浜の駅の近く。人通りはそれなりにあって、通行の邪魔にはならないけれど立ち止まっていても目立つほどではない。
それはついてなかったですね、なんて適当に相槌を打ってすぐに別れようと思っていたのに、その前にロナルドさんが口を開いた。
「……なんか今日雰囲気違う?」
バレてしまった。綺麗めのワンピース、華奢なヒール、ゆるく巻いた髪。明らかにちょっとその辺へお出掛けするのとは違う装いだ。そこまで女性の服装に詳しくなさそうなロナルドさんだってさすがに気付くだろうというレベル。
「……実はこの間の退治の依頼人の方がどうしてもお礼がしたいと」
本当は言いたくなかったのだけれど、変に隠して勘違いされては困る。
「高級イタリアンに連れてってもらいました。ラッキーですね」
「えっ、それって……」
お察しの通りだ。普通お礼と言っても菓子折りを送るくらいで、わざわざ高級レストランでの食事なんかに誘ったりはしない。分かってはいたけれど、退治人は人気商売なのだ。好感度が下がるような下手な手は打てない。
「完全な善意だったら悪いなと思ったら断れなくて……。でも、そのあとバーに行こうと誘われたのは逃げてきました!」
「危ないじゃん!!」
すぐに心配してくれるロナルドさんはいい人だ。心配してもらえるのはまるで大切にされているように思えてくすぐったい。
「私もこれでも退治人なので腕っ節には少し自信あるんですよ。逃げ足も、見ての通り」
「でも……」
これでも一般女性よりは強いつもりだ。きちんと護身術も身に付けているし、そこら辺の男性に簡単に負けるつもりはない。まぁ、それでもロナルドさんから見たら十分細い腕、なのかもしれないけれど。
「なんかあったら連絡してくれ! 守るから!」
彼の“守る”という言葉があまりにもまっすぐすぎて照れてしまう。まるでヒーローみたいな。でもきっと彼は言葉通り私を守ってくれるんだろうと思えた。
「ありがとうございます」
なんとかお礼の言葉を返したけれども、顔がひどく熱かった。
「もう帰るだけだろ? 送るよ」
「そんな、ひとりで大丈夫ですよ?」
「こんな綺麗な格好してるし危ないって!」
TPOに合わせただけとはいえ、それなりにお洒落をした姿をロナルドさんに見てもらえただけで良かった。さらには綺麗とまで言ってもらえて、もうそれだけで今日あった嫌なこと全部忘れてしまうくらい嬉しいのに。
「それじゃあ、お願いします」
「おう」
歩き始めた彼の隣に並ぶ。
見慣れた新横浜の街並みが、まるでイルミネーションで彩られたかのように輝いて見えた。
2021.03.27